瀬戸内寂聴「​夫の教え子との不倫」

【第4回】95歳、ご活躍を続ける作家・瀬戸内寂聴さん。終戦を迎えたのち、夫の教え子と不倫の関係になり、子どもを残して家を出ます。一方、どうしても小説家になりたいという思いも…(聞き手・平野啓一郎)
 ※本インタヴューでは自身が代表作を3点選び、それらを軸に創作活動の歴史を語ります。代表作は『夏の終り』(1963)、『美は乱調にあり』(66)と『諧調は偽りなり』(84)の一組、『源氏物語』現代語訳(98)。


夫の教え子との不倫

平野啓一郎(以下、平野) それで、終戦を北京で迎えられて帰国された後、実は空襲でお母様が亡くなられていたというような話がありまして、これは2014年に出された『死に支度』という作品にも非常に詳しく書かれています。その話も伺いたいんですけど、また大変長い話になるんで、皆さんにはぜひ『死に支度』を読んでいただきたいです。

その後、夫の教え子という人と不倫の関係になり、子どもを残して家を出たということになっていますけど。

『死に支度』 (講談社、2014年)

瀬戸内寂聴(以下、瀬戸内) 幼い、つまらない、ほんとに稚拙な恋でしたよね。だけど、だいたい恋なんてそうで。この人のここがいいから好きとか、背が高いからとか、器量がいいからとか、野球が上手いからとか、そんなので恋はしないわね。他人が見たら、「ああ、つまんない」と思うような人。

その男と、小説家になってからまた一緒に暮らしたことがあるの。有吉佐和子さんが遊びに来て、たまたま彼を見たんです。それでもう皆にね、「瀬戸内さんの男、つまらない男、なんであんなのと夢中になって、家庭を壊してまで、一緒になったのかしら」って言いふらしたんです。

その有吉さんは、有名な人と結婚したんですよね。神(じん)さんて人、有吉さんの結婚の相手。その人を私が見たとき、つまらないと思った(笑)。やっぱり他人が見たら人の夫なんてつまらないんです、皆。決して立派な男じゃない。だいたい、私ってつまらない男が好きなんです。

平野 余談ですけど、先日、瀬戸内さんと谷崎潤一郎についての対談をしましたけど、谷崎潤一郎と佐藤春夫が奪い合った最初の奥さんに関しても、やはり会ってみて、「あ、この人を奪い合ったのか」っていうんで、びっくりしたという話をされていましたね。

瀬戸内 ほんとにびっくりした。佐藤春夫と谷崎潤一郎の両方と結婚した人、千代さんね。あの人は佐藤春夫の詩なんか読むと、どんな美人かと思うでしょ? 私も、きっとすごい美人だろうと思ってたの。ものの本にもだいたい美人だって書いてあるんですよね、元芸者さんで。

私は実物に会っているんですよね。「はあーっ、これがお千代さんか」と。「いらっしゃい」なんて出てきて、もう大きくて太っていて、色が黒くて髪がぼさぼさで。佐藤春夫はもう写真のとおりの人でかっこいいんです。それで奥さんを見て、ほんとにびっくりした。

だけど、すごいんですよ。用があって、一昨日も昨日も佐藤春夫の詩集をずっと読んでいたんですけど、谷崎が佐藤春夫に奥さんを譲るってことで、たいへん有名な話があるでしょ?

平野 はい、細君譲渡事件ですね。

瀬戸内 あのときに、他にもう1人、若い男がいたんです。探偵小説を書いていた人。あの人がまた、もうまさに結婚してもいいぐらいになってたの。だから千代さんというのは、男がその気になるような人。体が大きな人でしたよ。だけど、美人とは誰も言わないと思う(笑)。

平野 瀬戸内さんご自身も、恋というのは雷に打たれるみたいなもので、理由があって誰をどう好きになるとかではないという話をよくされていますね。

瀬戸内 でもね、せい子さんというのがいたでしょ? 奥さんの妹で、谷崎がとても好きになって、『痴人の愛』のナオミのモデルね。その人は綺麗でした。92歳くらい、私ぐらいで死んだんじゃないかな。それで、88歳ぐらいのとき私、会ったんですけど、それは綺麗でした。足が細くて、特別の注文の華やかな靴を履いて、足がとっても綺麗だった。

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2017-11-11

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高橋源一郎さん、瀬戸内寂聴さん、谷川俊太郎さん、横尾忠則さん…小説家・詩人・美術家の人たちは何を生み出してきたか? 自身が代表作を3作選び、それらを軸として創作活動の歴史を振り返ります。創作の極意、転機となった出来事、これからの話ーー...もっと読む

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sisterhood_mew じゃくちょうさん、ちょさんのこのお話何回めですかw(https://t.co/tydeqpUBYc) 2年以上前 replyretweetfavorite

nuriyoka 地獄に堕ちろ生臭坊主!って思わざるをえなかったよね(´・ω・`) 作家・ 3年弱前 replyretweetfavorite