瀬戸内寂聴「​学生結婚、北京へ」

【第3回】95歳、ご活躍を続ける作家・瀬戸内寂聴さん。今回は東京の女子大に進学してからの話です。21歳で学生結婚、そして夫と北京に行くことになります。1943年のまさに戦争の最中、一体どのような状況だったのでしょうか。(聞き手・平野啓一郎)
 ※本インタヴューでは自身が代表作を3点選び、それらを軸に創作活動の歴史を語ります。代表作は『夏の終り』(1963)、『美は乱調にあり』(66)と『諧調は偽りなり』(84)の一組、『源氏物語』現代語訳(98)。

大学進学と小説家への夢

平野啓一郎(以下、平野) 大学に行かれてからは、将来小説家になりたいという思いを、さらに具体的に考え始めていたんですか。

瀬戸内寂聴(以下、瀬戸内) そう。大学に行ったら、そこに同人雑誌があると思っていた。そしたら東京女子大というのは、そういうの一切ないの。だから大学では、ただ自分で本を読んでいただけ。

平野 本を読みながら、そのときもう小説の習作みたいなものは書いたりされていたんですか。

瀬戸内 いや、そこまではまだ。だって書き方も知らなかったから。それに、東京へ行ったら、私程度にできる子はいっぱいいるでしょ。

だいたい大学を受けるときね、最初に数学の先生が「落っこちるから予備校に行け」と言って、渋谷に予備校があって、そこに行ったんですよ。そしたら、予備校の先生の言うことが何もわからないの、難しくて。英語や数学も、さっぱりわかんない。「これじゃ、もう落ちる」と思って、それなら「まあ遊んでやれ」と。

それで周りの人の話だけ聞いていたんです。そしたら皆、いろいろ苦労していてね。私も東京女子大はもうだめだと思ったから、試験に行って来たことも皆に言わないでおとなしくしていた。そしたら、入ったんですよね。これはよかったと思って。それで大学に行ったぐらいですから。そんな自分が小説家になるなんて思ったのは大きな間違いだったと、大学に来て思いましたね。

世の中にはもっとできる子がいて、私なんか小説家にとてもなれないと最初に思った。だけど、女子大でも作文があるんです。そしたら他のことはできないんだけど、作文だけは私が一番よかったの。それで先生が読んでくれると、「やっぱり作文はいいんだなあ」と。この道だけだなと思った。

学生結婚、北京へ

平野 瀬戸内さんは、実は在学中にもう結婚されているんですよね。

瀬戸内 そうそう。それがね、親類中に「なぜそんな器量が悪いのに女子大なんかやって、もうますます縁がなくなる」と言われて、お母さんが責められたんですよ。もう親類が集まると、「皆が私を責める」ってお母さんが私に言うものだから、お母さんがかわいそうで。

だから、「在学中でも何でもいいから、お嫁に行きます」と言っていたの。そしたら、徳島の女学校の先生が写真持って来てくれて。

平野 はい。それで、お相手の方を気に入ったんですか。

瀬戸内 それが留学生で北京にいて、支那古代音楽史の勉強している人だと言うんで。学者の卵ね。写真は大きな中国人と一緒に写っていて、何か、とにかくちいちゃいんですよね。だけど、どうでもいいと思って、「あ、もう行く行く」と、それで決めた。支那古代音楽史に憧れて行ったのね。

平野 瀬戸内さんが終戦を北京で迎えられたということは存じ上げていたんですけど、あらためて年代を見ると、1943年に21歳で結婚されて北京に行かれているんですね。

瀬戸内 学生時代に結婚したでしょ。ほんとに皆さん信じられないかもしれないけど、私は夫婦になって教室に行くなんて、そんな恥ずかしいことは嫌だったの。だから「結婚しましたけどセックスはしません」って言ったの。そしたら、うちの亭主もほんとに変わっていて、「あ、いいですよ」って言ったの。それでほんとにセックスしなかったの、籍は入ったけど。誰も信じない(笑)。

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2017-11-11

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yu_llri 戦前の話。でも、日本にいたくないの分かる。息が詰まるというのは今と同じだなぁ。国が嘘をつくとか。日本は好きだけど暮らしにくいし、進歩がない。→ 3年弱前 replyretweetfavorite