本屋はもっと「浪費」できる! 「本屋の新井さん」対談【前編】

ちまたで言われている「コト消費」は、果たして売り上げに結びついているのか? 「コト」と「モノ」をつなげる必要性を訴えるコピーライターの川上徹也さんと、「新井賞」「新井ナイト」などさまざまな「コト」を使って本を売っている「本屋の新井さん」こと書店員の新井見枝香さんの対談。前編の今回は、書店での「コト消費」について考えました。


新井見枝香さんと川上徹也さん。壹眞珈琲店神保町店にて。写真:奥西淳二

「買いたい!」があるって幸せなこと

川上徹也さん(以下、川上) 11月に刊行した『「コト消費」の嘘』(角川新書)という本の中で、新井さんのことを取り上げさせていただきました。この本は、「コト消費」が声高に叫ばれるなか各地で取り組みが行われている体験やイベントといった「コト」が、実際の商品である「モノ」の売上に結びついていない場合が多いことを指摘しながら、本当に「買いたい!」「また来たい!」と思わせるためにどう「コト」と「モノ」を結びつけるかを考えた本です。
 その中で、書店で人を全面に出すことで、「コト」と「モノ」を結んで売り上げを作っている事例として、新井さんの取り組みを紹介させていただきました。

新井見枝香さん(以下、新井) 取り上げていただきありがとうございました。『「コト消費」の嘘』ずっとうなづきながら読んでいました。会社の偉い人たちに配って歩きたいです (笑)

川上 新井さんは「新井賞」「新井ナイト」など、いろいろな「コト」を起こしていますが、それをすべて「モノ」につなげて、ものすごく売っているのが本当にスゴイなと思っています。

新井賞……新井さんが作った文学賞で芥川賞・直木賞の発表日に『この作品に何の賞も与えられないなんて嘘でしょ?』 という本に贈呈する賞
新井ナイト……新井さんがゲストに作家を招いておこなうトークイベント。

新井 よく調べていただいて(笑)

川上 例えば「新井賞」に関して、以下のようなことを書かれていますよね。
 「資金ゼロ。言ったもん勝ち。
 ただ賞を与えて入荷したからには責任をもって売る。
 それがプライスレスな賞金だ」
 ここまで言い切れるのはただもんではないなと。

新井 やっぱり本屋は本を売ってなんぼだと思うので。

川上 「今年一番売ったな」と思う本はなんですか?

新井 『浪費図鑑』(小学館)ですね。劇団雌猫というサークルが発行していた同人誌を書籍化したものなのですが、アイドル、声優、宝塚、バンド、コスメ……何かにどハマりした女性たちが、どんな風にお金をつぎ込んでいるかを書いた本で。私がビジュアル系好きというのもあるんですが、メチャクチャ共感して読みました。浪費図鑑にかかわるような本も集めてコーナーを作ったんですが、そちらも好評でしたね。

川上 浪費、いいですね。浪費という言葉のイメージは悪いですけど、買いたい気持ちにさせてくれる対象や場所があることはとても幸せなことだと思うんですよ。物を買って初めて記憶に残る面もありますし。
 僕自身、個性的なお店としてメディアに出てくるような店であっても、いざ行ってみると、あんまり買いたい気持ちがわきあがらないなと思うお店も少なくなくて。
 新井さんもコラムで書いていらっしゃいましたが、書店ももっと浪費スポットになれるはずですよね?

新井 そうなんですよ。でも書店は浪費のツボを押すことがどうもうまくないんです。私の感覚で言えば控えめすぎます。もっともっと思い切って、グイッといかんかい、と思うんですけど。

書店でもっと本の話をしよう!

新井 以前、出版社出身のとあるウェブメディアの方とお話してる時に、「最近何か面白い本ありました?」って聞かれたので「ああ、あったよ、これこれこうで」って言ったら、「へえ」って、その場でアマゾンを開いてポチったんです。

川上 え? 書店員と話しているのに?

新井 そうなんです(笑)。でもやっぱりそれでもうれしかったし、これがリアルだなって。本を買ってもらうって、もう書店で待っているだけじゃダメで。熱が高まったときに商品に手に届かないと動かない。買って話題になれば、書店で買う人は買ってくれるし。

川上 だからこそ、書店はもっと熱を持つ必要があると。

新井 そうだと思います。『「コト消費」の嘘』にも書いてありましたけど、書店に来ている人のほとんどの人は、面白い本に出会いたいから来ているのであって。当たり前ですけど、これが本当に大事で。で、あればやっぱり書店にはもっと「買いたい」と思わせる熱が必要で。そのためには「ぜひどうぞ!」「めっちゃいいですこれ」っていうのをもっと伝えていかなければいけないと思うんです。


『「コト消費」の嘘』での書店での売り方のアイデア

川上 新井さんはすでにそうだと思うんですが、「この人から買いたい!」「私を買わせてくれる書店員さん」というのももっといていいですよね。実演販売士みたいに。

新井 そうですね。あとお客さんと話をしていても、本を探したいと言うよりただ本の話を聞いてほしいという場合もけっこうあったりするんです。読書会もいろんなところで行われていますけど、もっとみんな本の話をしたいし聞きたいんじゃないかなって。で、やっぱりそうしたところをすくい上げていきたいです。

川上 そして、その説明やそうした場自体が書店の商品になってもいいですよね。

新井 ね。ドリンク飲みながら、チップの代わりに本棚から抜かれた本が積み上がっていく形で(笑) もっと話したければもっと買ってくれてよくてよ、というような。

川上 書店はまだまだ「コト」と「モノ」を結ぶ新しい売り方ができると思うんです。例えば、

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この連載について

初回を読む
コト消費」の嘘

川上徹也

連日メディアをにぎわす「コト消費」という言葉ですが、言葉に踊らされて「コト」だけを売り、売上に結びついていない事例も少なくありません。また「コト=体験」といった表層的な理解で語られることも多いのが実情です。「コト」と「モノ」をきちんと...もっと読む

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