美をさがし求めるのが私の生業である。
こんなうつくしいものを見つけた。
出会い頭に射抜かれる、最果タヒの詩の言葉。
あなただけが好きだった、それは、孤独の形をしていた。なにもかもを好きだった頃を思い出す、12月。25日。
(「クリスマスの詩」)
新宿の街を詩が彩る
12月だからショーウインドウがきらびやかなのは、そりゃ当然と思っていた。
新宿南口のルミネ前で人待ちをしながら、ぼんやリウインドウを覗く。と、言葉と目が合った。
私は誰かにとって、
だきしめるととてもあたたかい存在なのだと、思い出していた。
え、と驚く。ウインドウに文字が貼り付けてあるのだ。広告の煽り文句じゃない、ひと連なりの文章が載っている。
読み進めると、
サンタクロースを信じますか。
雪の結晶を信じますか。
虹の7色を信じますか。
バターと塩キャラメルがおいしいことを信じますか。
(「グッドナイト」)
時節にぴったりの文章だった。サンタクロース。雪。虹。バターにキャラメル。一つひとつの言葉に喚起されて、頭の中にいかにも年末らしいイメージが描けた。緑と赤、白、深い黄と、色彩の取り合わせまでよくよく考えられている気がする。
これは最果タヒさんの詩の一節。新宿を含むルミネ全館では「ルミネ×最果タヒの詩の世界」を展開中で、最果タヒさんが書き下ろした5編の詩を題材に、施設を彩る企画が展開されているのだった。
断片だけでも人の心を瞬時に揺り動かす、最果タヒの言葉の力は強烈だ。その言葉が街角で目に飛び込んでくれば、衝撃はさらに増す。
たとえ同じ詩であっても、詩集を開いて文字を拾うときとは明らかに感触が違う。こちらが油断していた分、詩の言葉がよりダイレクトに頭の中へ飛び込んでくる。
詩の存在感が、増大する
さよなら、若い人。
きみは飛び降り自殺ができない。
美しい肌がよれていくこと、
目がしぼんで小さな穴になること、
魂がせめて美しい星になればと、願うような、
そんなかわいいおばあさん、
こんにちは。
一緒に、私とお茶しましょう。
(「さよなら、若い人。」 『死んでしまう系のぼくらに』所収)
詩は綴じられた本の中にだけあるのではない。読者のいるところ、どこへでも詩の側から出向いていけばいい。そんな考えを実践し、ジャンルの壁など軽々と越えていく最果タヒさんのスタンスは、詩人としてかなり珍しい。
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