喫茶店のマスターに聞く!「アカウンティング」と「ファイナンス」

偶然に通りがかった喫茶店「三毛猫茶房」で、美鈴はパパの知り合いだというマスター・石島と出会った。決算書を前に悩む美鈴に「森下書房は『利益はあってもキャッシュがない』状況」と告げる石島。本当に彼はただの喫茶店のマスターなのか――。平凡な女子高生が、青春を賭けて、倒産寸前の出版社立て直しに挑む。「出版業界」のリアルを描き出しながら、必須のビジネス教養も一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第6回!

「いったい何者?」

美鈴は、会社の決算書をカバンから取り出した。

なぜ石島が森下書房の話を聞きたがるのか、そもそも猫カフェのマスターに会社の経営が理解できるのか疑問に思いながらも、美鈴は森下書房の置かれた窮状を説明した。

美鈴にとってはほぼ初対面の得体の知れない人物だが、パパと仲良くしていたこと、そしてお通夜に来てくれたことを考えれば、悪い人ではないのだろうという直感が働いた。

何より、自分の話を真剣に聞いてくれているようだった。

美鈴がひと通り説明を終えると、石島は眼鏡を人差し指で押し上げてから、こういった。

「どうやら森下書房は、『利益はあってもキャッシュがない』という状況のようですね」

「利益はあってもキャッシュはない?」

「そう。利益はわかりますよね」

「儲けたお金でしょ。それぐらいわかるよ」

すでにため口だ。美鈴にとって、ため口は心を許した証拠でもあった。

「もう少し具体的にいうと、売上から費用を引いたものです。カフェでいえば、お客様からいただく料金が売上になりますが、カフェを経営するにはお店の家賃やコーヒーや食べ物の仕入代金が必要になる。これらの費用を売上から差し引いたものが利益になるんです」

「うん、それは大丈夫。利益が出ているってことは、お金も手元に残るということでしょ」

「それは違います。利益は自由に使えるお金ではありません

「えっ、どういうこと?」

「たとえば、うちのコーヒーは1杯500円です。お客様がコーヒーを注文すれば売上は500円になる。一方、1杯のコーヒーを提供するには費用もかかります。コーヒー豆を仕入れないといけないし、店舗の家賃や私の人件費も費用として含める必要がある。仮に費用が300円かかったとしましょう。そのときの利益はいくらですか?」

「500円-300円だから200円。カンタンだよ」

「でも、お客様が500円を払ってくれなかったら、どうなります?」

「それって食い逃げじゃない。そんなひどい客はいないでしょ」

「食い逃げはなくても、実際にはつけ払いというものがあります。ちなみに、キミのお父さんは常連さんだったので、よくつけ払いをされていました」

「そうでしたか……すみません」

「もちろん、つけ払いは悪いことではないけれど、お店としては困ったことになります。500円を売り上げて、計算上は利益が出ているはずなのに、現金がすぐには入ってこないからです。でも、コーヒー豆の代金や家賃は先に払わなければなりません。ということは、どういうことだと思いますか?」

「利益が出ていても、手元に現金がない……」

「そう、さっきも似たような言葉が出てきましたよね」

「あっ、利益はあってもキャッシュがない!

「キャッシュ=現金という意味なんです」

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石野雄一

小さな出版社の社長だった父の突然の訃報。 あとを継ぎ、社長に就任した女子高生の美鈴。 しかし会社は倒産寸前。銀行への返済期限は3ヵ月。 「出版不況」「返品の山」「使えない編集者」。 次々と難題が襲い掛かる。途方に暮れる彼女の前に 現れ...もっと読む

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