これまでの恋人と結婚相手の違い
—— 下田さんは去年、雨月さんは今年の4月にそれぞれ結婚されましたが、びっくりしたcakes読者は多かったと思います。雨月さんはずっと「こじらせ」ていましたし、下田さんは『そうだ、結婚しよう。愛されつづける非常識のススメ』のなかで、「結婚は墓場」だとおっしゃっていましたから。
下田美咲(以下、下田) そうですね。小さい頃から結婚は人生の墓場だと思っていました。結婚の成功例を見たことがなかったから。 結婚のメリットが分からないし、むしろリスクの方が気になるし、一生同じ相手と添い遂げられる気がしないし、そもそも結婚の契約内容っていろいろと恐ろしいから、危なくてできないって思ってました。それよりも、ずっと遊んで生きていく人生の方が良さそうだなって。
雨月メッツェンバウム次郎(以下、雨月) そうか。その考えだったのに、なぜ27歳でご結婚されたんですか? 今までの相手と何が違ったんですか?
下田 ひとことで言えば、床上手。
雨月 床上手?(笑)
下田 うん、圧倒的床上手。
雨月 圧倒的床上手(笑)。なぜそこが決め手に?
下田 だって、夫婦になるってことは、浮気をしないという前提じゃないですか。となると、他の男の人に抱かれたい気持ちがわかないように、夫となる人はそこが群を抜いてうまくないと困る(笑)。
雨月 なるほど(笑)。 彼と結婚しようと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?
下田 夫は結婚する前、歌舞伎町のホストだったんです。当時の私は飲みコールの女王としての活動が中心だったから、歌舞伎町は拠点の一つで。それで私たちはいつも歌舞伎町で遊んでいたんですけど、あるとき彼が「ホスト辞めようと思うんだよね」って言い出したんですよ。おそらくその頃の彼は、私に恋をしつつあって、ホストを続けているのがしんどくなっていたんだと思います。それで「辞めてどうするの?」って聞いたら、「俺、牧場やりたいんだよね~」って言われて。
雨月 へー!
下田 牧場をやる場合、歌舞伎町からは確実にいなくなるよなって思って。
雨月 うん。
下田 それまで彼は私にとって、歌舞伎町で遊べるから便利な男、という存在だったんですよ。私の生活圏内にいるから、仕事のついでに気軽に会えて、それが好都合だったから遊び始めたし、遊び続けていたんです。でも、もし牧場に行っちゃったら、今までのような気軽さでは会えなくなる。歌舞伎町という接点がなくなったら、お互いの中にかなりの「会いたい」って気持ちがないと会えない。
雨月 そうですね。
下田 そう思った時に「困る」って思ったんですよね。会えなくなるのは嫌だけど、彼女でもなんでもないのに牧場まで会いに行っていいものかもわからないし気まずいから、このままずっと歌舞伎町にいてほしい、って(笑)。それで自分は彼のことが好きなんだって気づいたんですよ。この男から便利さと好都合さを抜いても、それでも会いたいほどこの人のことが好きなんだ私、って。
雨月 なるほど。
下田 こういう引っ越し系は、自分の気持ちが浮き彫りになりやすいですよね。
雨月 物理的距離ってすごく重要ですもんね。彼と離れたことを想像して、自分の気持ちに気づいたと。
下田 うん、それがなかったら今の夫が特別な存在だということに気がつかなかったかも。
僕の人生が破滅しても一緒にいたいって思えた
—— 雨月さんの場合はどうでしたか? それまでの恋人と何が違ったのでしょうか?
雨月 ひとことで言うと、彼女の覚悟を感じられたんですよ。
下田 覚悟?
雨月 妻は、僕と付き合っている頃から、cakesの連載を読んでくれていたのです。僕は連載中にいろんな女性と会って話を聞くってことをずっとやっていたし、時には恋愛でえげつないことも書いていました。言い訳になりますけど、cakesの連載のせいで、ダメになった恋愛も結構あったんです(笑)。でも、彼女はそれも含めて呑みこんでくれる覚悟があった。
下田 そうなんだ。
雨月 それを実感した時に、この人が犯罪を犯したり、変な宗教に入ったり、東京にいられなくなったりしても、ずっと一緒にいたいと思えたんです。それで彼女と結婚しました。
—— なるほど。雨月さんは、奥さんのどこが一番好きですか?
雨月 圧倒的酒乱なところですね(即答)。
—— 酒乱!?
雨月 もう酷いんですよ。飲んで記憶飛ばしちゃうくらい。目をつぶりながら道を歩いちゃうんですよね。いつか車に轢かれるんじゃないかと心配になるんですけれど。
—— なぜそこがいいんでしょうか?
雨月 かわいいなぁと思って。
—— 守ってあげたいということでしょうか?
雨月 そうかもしれないですね。ヒヤヒヤしますね、ばかみたいに飲んでぐでんぐでんに酔っ払うので。家で飲むときもそうで、結構手がつけられない感じになります。
—— それって普通はマイナスポイントですよね……?
酒乱がモテる理由
下田 そうですか? 酒乱はモテますよ。
—— えっ!? そうなんですか?
下田 私、アルコール女王として、酒乱になることが仕事だった時があって、よく泥酔してたからわかるんですけど、酒乱はすごくモテます。
—— 無防備だからでしょうか?
下田 うーん、おもしろいからじゃないですか。
雨月 おもしろいし、女性としての魅力が増すような気がしますね。危ないから守ってあげたくなるってだけじゃないんですよ。
下田 泥酔している時って、とんでもなく赤ちゃんになるし、周りの人をすごく慕っていくんですよ。なんの警戒心も抱かずに甘えまくる。
雨月 より原始的な感情だけになってくるんですよ。
下田 建前がなくなりますよね。
雨月 そう。
下田 建前がなくなるから、どんな愛の言葉も言えるし、寒いことも言える。それがおもしろいんですよね。相手にどう思われるのか考えなくなる姿がかわいいんですよね。
—— そこに魅力が……! なるほど。
結婚前に遊び倒したからこそ
—— ところで、下田さんは最初に、「ずっと遊んで生きていく方が良さそうだと思ってた」とおっしゃいましたが、結婚することで他の人と遊べなくなるのは嫌ではなかったのでしょうか?
下田 それについては、遊び倒してから結婚したので、未練はないです(笑)。結婚前は、結婚をしているわけじゃないのに自分の男枠を一択にする必要なんて全然ないし、今はいくらでも遊んでいい時期だと思っていたので、一通り遊び尽くしました。
雨月 (笑)。
下田 独身のとき、お花見やBBQ、海水浴、新年会忘年会もフル参戦して、いわゆる「独身遊び」を謳歌したんです。そういう遊びって、最初はすごく楽しいんだけど、3~4シーズンやると、毎年同じだなって思ってくる。遊び尽くして飽きた頃は、逆に親戚の会合とか行ってみたいなって思うようになって(笑)。
—— なるほど。結婚前に飽きるほど遊んでおけば、結婚後に遊びたくならないんですね。
雨月 あと、いろんな年齢の人や、バックグラウンドが全然違う人と付き合っておくと、遊びたい欲は薄くなると思います。付き合うとある程度その人が見えますから。僕も、もう思いつく職種の人全員と付き合うくらいのことをしてきました(笑)。そうなると飽きが早いですよね。
下田 なんだこの程度かって思いますよね、いろんなものに。
雨月 経験すると、知らなかったものへの無駄な憧れがなくなりますよね。
下田 そう。結婚前に独身遊びを全部やり尽くして満足したから、今は他の人と遊びたいとかは全然思わないです。
次回「恋に落ちても、愛には勝てない」は、12/27更新予定。
構成:鈴木啓太
写真:大熊信(cakes)