こんな映画は絶対見ちゃダメ!わかった?ハイこの後はね、お嬢さん方に朗報、バナナで十キロ痩せる方法

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。山島久美子の証言、第六回です。
『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さんが、満を持して放つ巨篇『アクシデントリポート』を特別掲載いたします。

「亡くなった六百七十二人の方々のために頑張りました。『ジャンボ超特急』は日本映画史に残る名作です。みなさんよろしくお願い致します」

 完成披露記者会見では怒号が飛び交いました。袋叩きや集中砲火といった言葉では到底言い尽くせません。大手メディアは飛山社長と私の社会的抹殺を企ててきました。テレビは見ないようにしていましたが、一度油断してテレビを点けたら、脂ぎった中年の司会者が「おもいっきり」尊大な態度で長広舌を振るっていました。

「ぼかあね、こういうの大嫌い! 人の生き死にを商売に利用してね、売名行為や金儲けにする人たち。冗談じゃありませんよ! いったい何を考えてるんだろうね。飛山社長も妹さんを事故で失っているとはいえね、こんな映画を作っても妹さんは喜ばないと思うし、他の遺族の人たちの心情も考えなきゃ。ふざけるんじゃないよ! テレビを見ているみなさんにも言っておくよ。内容云々以前に、こんな映画は絶対見ちゃダメ! わかった!? ハイ、この後はね、お嬢さん方に朗報。バナナで十キロ痩せる方法」


 この世の全部を敵に回したように感じました。飛山映画社には連日街宣車が押し寄せ、一一〇番に通報しても「日本国憲法には言論の自由と集会結社の自由が認められていますから」と黙殺される始末。連日、野次馬が取り囲み、「恥を知れ!」「責任を取って自殺しろ!」「死んで償え!」「死者に対する冒涜だ!」「遺族の気持ちを思いやれ!」と喚き散らしました。嫌がらせは私だけでなく、またしても実家に及びました。母は発作を起こし、たまりかね救急車を呼んだものの、野次馬に阻止されてしまった。母はそれきり車椅子の生活を強いられています。

 それでも飛山社長と私は、できるかぎりのパブリシティを打ちました。飛山出版の雑誌はすべて『ジャンボ超特急』を表紙にしましたが、出版業界の卸売おろしうり問屋である取次が書店に流通拒否
 。早朝から深夜まですべての生放送の番組に出演して宣伝することをテレビジャックと言い、飛山社長は子飼いにしていたはずのプロデューサーに働きかけようとしたら、門前払い。『ジャンボ超特急』のヒット祈願にと、八菱山まで弔歌を捧げに行ったところ、私に硫酸を掛けようとした遺族が誤って自分の顔に浴びせ、運ばれた病院で抗議の自殺未遂。その後はどうなったかわかりません。


 挙げ句の果てには映画館に爆破予告の脅迫状が届き、警察から「上映を見合わせるように」という通告が来た。是非もない上映取りやめの決定にがっくりと肩を落としていると、飛山社長が声を震わせました。

「時代が早かったか……!」

 宣伝スタッフは彼に言葉をかけることもできずに、無表情で通していました。

 しかし公開無期延期の間に『ジャンボ超特急』がインターネットにまるごと流出したのです。試写会で隠し撮りしたものでしょう。見せ場であった私のヘアヌード画像が至るところに貼られ、「うめぼし」「洗濯板」「鼻くそ」「世界最貧乳」と悪意と嘲笑の書き込みが拡散しました。あのときほど人間不信に陥ったことはありません。ひょっとしたらこの中には、私と付き合った男が書いたものがあるのだろうかと考えると、昼も夜も眠りにつくことができなくなり、処方された睡眠薬を服用しても安息な日々は戻ってきませんでした。

 —まさか掛り付けの医者が大洋ジャンボ墜落事故の遺族で、私に対して憎悪の感情を抱いているのでは? 私を殺してやりたいと、睡眠薬ではなく死に至る劇薬を調合しているのでは? いや、あのとき死んだ他の乗客の霊が私に取り憑いているのか? なるほど、道理で肩や全身が重たいと思った。男が離れていくのも霊が原因だったのか。

 いや、やっぱり違う。本当はあの旅客機が墜ちて傍から見れば私は意識不明の重態で、現実だと思っているこの世界が実は夢なのでは? そうでなければ、私程度が映画スターになれるわけがない。そうだそうなのだ。じゃあ夢の中なら死んでもいいのでは? 夢の中で死ねば目を覚ますのか? いや、二度と覚めなくても済むかも—。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
アクシデント・リポート

樋口毅宏

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。 『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さん...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません