革命家」もひとたび陰りが差せば「哀れな独裁者」と呼ばれる

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。山島久美子の証言、第五回です。
『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さんが、満を持して放つ巨篇『アクシデントリポート』を特別掲載いたします。

 飛山社長はニューヨークとパリに飛山映画専門の劇場を作りましたが、お客の入りはかんばしいものではありませんでした。ワンマンでも好調なときは、世間は「革命家」「リーダーシップと決断力がある」と持て囃してくれますが、ひとたび陰りが差せば、「落日の暴君」「哀れな独裁者」と呼ぶようになります。『七人の侍』や『太陽を盗んだ男』など、過去の名作リメイクが不発に終わり、海外の映画製作もことごとく失敗すると、飛山映画の業績悪化が、不況下の出版部門にも影響を及ぼすようになりました。

「みんなボクに嫉妬しているんだよ。悔しいのさ。自分は大した努力もしないくせに、人が成功するのは気に食わないらしい。どいつもこいつもボクの足を引っ張ろうとしやがって。電波もネットも大衆も、ひとのことをどうぞどうぞって二階に上げておきながら、掛けたハシゴを外す奴らなのさ。それでこちらが文句を言えば、『今度は自力で三階に上がってみろ』と言う。そういう最低な人種さ。
 まあ見てなよ。来年、製作費百億円をつぎ込んだ『天と地と神と』って超大作のメガホンをボクが取るから。世界はあっと驚くことになるよ」

 そして結果は、確かにある意味、社長の言った通りになりました。


 ベストセラーを映画化してヒットを飛ばし、映画のヒットにより本がまた飛ぶように売れる—。理想的なサイクルがいつしか壊れていきました。

「あー、金がありすぎてもう見たくない。洟をかみたかったら諭吉をお使い。尻を拭いても構わない。いっそアフリカの小国でも買っちゃおうか。ルワンダあたりがお手頃じゃないかな」

 そうした大法螺を吹けるほどの巨利を得てきたはずなのに、飛山社長の放漫経営のせいで会社が傾き出しているという噂が、私の耳にも飛び込んでくるようになりました。

 映画の宣伝のためならと、新築の自社ビルを爆破したり、劇場の舞台から総額十億円の紙吹雪を演出したりするものの予想していたほど効果もなく、内部の不満を募らせるばかりで、すべてが裏目に出ました。

 私と同じように飛山社長にデビューさせてもらい、スターになった人たちまで、次々と彼のもとを去っていきましたが、社長は引き止めませんでした。

「去る者は追わず。いい大掃除ができたよ」

 口ではそう強がるものの、寂しそうな目をしていました。

 状況は悪くなる一方ですが、誰も飛山社長を止めることなどできません。酒量は増え、私も毎晩のように連れ回されました。行きつけの銀座のクラブで、朝まで持論を展開していたときのことです。私が恐れていた「最悪のシナリオ」を、社長は口にしたのです。

「クミ、出版社は自社の株を上場しない。ということは、会社がどんなに大きくなろうと、株主の言うことを聞かなくてもいいというわけだ。つくづく出版社の社長で良かったと思うよ。好きなものだけ作り続ければいいのだから。
『世間のニーズを読め』『綿密なリサーチをしろ』と言う輩がいるが、そんなものは自分でも何が作りたいのか、何が欲しいのかわからないバカの戯言ざれごとだ。こちらから大衆が欲しがるものを作り出せばいいだけの話さ。大衆がビートルズのような音楽を求めていたからビートルズが現れたのではない。ビートルズが現れたから、大衆は自分たちがビートルズのような音楽を求めていたと知ったんだ。ジョン・レノンがいなかったら、新しい音楽がどんなものなのか、大衆は想像することなどできなかった。作り手側が提示して、大衆は後から付いてくる。
 ボクは出版界と映画界のビートルズになる。ツェッペリンにも、ピストルズにも、ニルヴァーナにもなってみせる。あ、そうだ。いま言ったバンドをみんな再結成させちゃおうかな。ボクの全面プロデュースで」

 この頃になると、私も社長の考えについていけなくなっていました。女優になればいいのにと思うほど綺麗なホステスだけが、辛抱強く彼の戯言に相槌を打っていました。

「今に見てろよ。このままじゃ終わらんからな。起死回生の一手がボクにはあるんだ」

 社長の口角にネバネバしたかすが溜まります。こんな下卑た笑い方をする人だっただろうか。どんなに大風呂敷を広げても、不思議と品格は失わない人だったのに……。私は頭の片隅に思い、すぐに打ち消しました。

「クミ、来年は何があるかわかるか」

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アクシデント・リポート

樋口毅宏

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。 『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さん...もっと読む

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