ボディビルを始めた後、三島は『金閣寺』を上梓し、長渕は大麻をやめた

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。山島久美子の証言、第四回です。
『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さんが、満を持して放つ巨篇『アクシデントリポート』を特別掲載いたします。

 くちばしを入れてきたのは飛山社長でした。ネット界の寵児と付き合っていたときでも干渉することのなかった社長が、このときだけは違ったのです。

「クミ、悪いことは言わん。あの男はやめとけ。ボクはこれまできみの交際に口出しをしたことはないが、今回だけは言わせてもらう。彼が天才であることは間違いない。しかし、才能は早晩涸れる。なぜか? あの男は、センスはあるが教養はないからだ。
 教養は若い頃に培わなければ身につかない。十代から二十代の間に、膨大な数の本を読み、映画を見て、音楽を聴いて、どれだけ深く共鳴し、自分の血肉にできるかで、その人間の感性が決まる。ものを作る人間にとってそれは本質的なものであり、生命線だ。彼にはそれがない。お笑いの天下を取ったいま、たけしさんと同じように、映画業界に進出するだろう。そのときメッキが剥がれる。底が見えると予言しておく。
 ボクも彼のことを素晴らしいと思っていた。天才だと崇拝していた時期があった。それは正直に認める。しかし、この先、心の底から失望させられることになるだろう。
 彼はそのうちボクシングを始めて、筋肉を誇示するようになる。予言者のボクには見える。

 ものを作る人間で、成功を収めた後に、体を鍛え始める者を私は信用しない。
 三島由紀夫を見ろ。長渕剛を見ろ。身体をマッチョにし出したのと同時に、クリエイティビィティのピークが過ぎていった。虚弱体質に生まれて、肉体のコンプレックスが根底にあるからこそ才能が発揮できたのに、世間からチヤホヤされるようになって、それでも貧相な肉体に負い目が付きまとう自分から逃れようと、これ見よがしの筋トレに精を出す。ボディビルやウェイトで見せかけの身体に改造したところで、精神は強靭なものになりはしない。第一、強くなろうとしても基が弱いのだから無駄なことだ。
 なるほど、歳を取ると体力も落ちていくし、ストレス解消や健康のためならいいだろう。それに、それで強くなったと錯覚し、仕事へのモチベーションを上げられるなら、それは結構な話かもしれない。しかしなんだかねえ。その点小林よしのりのほうが立派だ。清いよ。無駄な抵抗をしない。きみが彼と付き合うならボクも反対しないな。

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アクシデント・リポート

樋口毅宏

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。 『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さん...もっと読む

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