朝昼晩、土日も関係ない。のべつまくなしとはあのことや。わいもまだ若かったからパチンコや競馬で負けたり、オヤジと言い争いをしたり、嫁が躾けてないガキを叱ったり、そのたびに電話して当たったわ。憂さ晴らしやないで。
「姉ちゃんが痛い痛い泣いとる! わいの枕元に立って泣いとるわ」
どアホ。姉ちゃん飛行機落ちてバラバラになってもうたんやから枕元に立てるわけあるかいな。
わいのエライとこはな、こうやっていたぶった後も、「おまえ、これで代わりのもん立てたりしたらあかんで。今後のおまえのためにもようないで」ゆうて仏の顔を見せとくことや。生かさぬように殺さぬように、言うやろ。うまい加減でいたぶる。ほいでたまの角砂糖。ここ。ここの見せどころや。盗んでみい。
ドライブに行ったこともあるで。わいの車で。だから言うたやろ。仏の顔やて。
「いつもキッツイこと言うてすまんな。あんたがようやってくれとるのはわかっとる。しかしな、大事な大事な身内を失った悲しみいうのは、温厚なわいでもついつい怒りに駆り立てられてしまうもんなんや。わかってや、かんにんしてや」
ここでサングラスの下に手をやる。洟を啜る。恭介はんの頭脳プレー・パート2や。盗めよ。
高速湾岸線のあたりを走らす。明かりがラスベガスみたいにきれいでな。行ったことないけど。地震があった年やから横倒しになって通れん道がある。計算済みや。文代の身の上を聞き出せるやろ。東京の短大出て大阪に来て、オヤジは学者いうたかな。わいのとこと全然
文代んチにも押し掛けたわ。そんときにはもう打ちとけとるしな。西九条のマンションにひとりで住んどった。ピンポンピンポン鳴らしてな、文代はヘビに睨まれたなんや、あれや、ネコ? みたいにぶるぶる震えてな。ごっつ可愛いかったでえ。家にまで来られては困りますぅとか四の五の言われる前に先手必勝や。位牌あるやろ。あれを突き出すんや。頭脳プレー・パート3。
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