誠意を、あ、あ、あ、見せええええい!

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。武久恭介の証言、後編です。
『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さんが、満を持して放つ巨篇『アクシデントリポート』を特別掲載いたします。

 朝昼晩、土日も関係ない。のべつまくなしとはあのことや。わいもまだ若かったからパチンコや競馬で負けたり、オヤジと言い争いをしたり、嫁が躾けてないガキを叱ったり、そのたびに電話して当たったわ。憂さ晴らしやないで。

「姉ちゃんが痛い痛い泣いとる! わいの枕元に立って泣いとるわ」

 どアホ。姉ちゃん飛行機落ちてバラバラになってもうたんやから枕元に立てるわけあるかいな。

 わいのエライとこはな、こうやっていたぶった後も、「おまえ、これで代わりのもん立てたりしたらあかんで。今後のおまえのためにもようないで」ゆうて仏の顔を見せとくことや。生かさぬように殺さぬように、言うやろ。うまい加減でいたぶる。ほいでたまの角砂糖。ここ。ここの見せどころや。盗んでみい。

 ドライブに行ったこともあるで。わいの車で。だから言うたやろ。仏の顔やて。

「いつもキッツイこと言うてすまんな。あんたがようやってくれとるのはわかっとる。しかしな、大事な大事な身内を失った悲しみいうのは、温厚なわいでもついつい怒りに駆り立てられてしまうもんなんや。わかってや、かんにんしてや」

 ここでサングラスの下に手をやる。洟を啜る。恭介はんの頭脳プレー・パート2や。盗めよ。

 高速湾岸線のあたりを走らす。明かりがラスベガスみたいにきれいでな。行ったことないけど。地震があった年やから横倒しになって通れん道がある。計算済みや。文代の身の上を聞き出せるやろ。東京の短大出て大阪に来て、オヤジは学者いうたかな。わいのとこと全然ちごうててそそられたわ。そんなインテリのお嬢様を車に乗せとると思うとナニがナニしたわ。考えてみい。わいなんか中学もろくに出てへんのやで。そこを大学出のエリートのネエちゃんが頭下げに来たんや。フツーやったら口もきいてもらえへんところが、なに言うてもはいはい聞いてくれる。夢みたいやで。

 文代んチにも押し掛けたわ。そんときにはもう打ちとけとるしな。西九条のマンションにひとりで住んどった。ピンポンピンポン鳴らしてな、文代はヘビに睨まれたなんや、あれや、ネコ? みたいにぶるぶる震えてな。ごっつ可愛いかったでえ。家にまで来られては困りますぅとか四の五の言われる前に先手必勝や。位牌あるやろ。あれを突き出すんや。頭脳プレー・パート3。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
アクシデント・リポート

樋口毅宏

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。 『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さん...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません