「『郡司組の核弾頭』いうたらナンバで
知らんもんはおらんかった」
武久恭介(25)の証言
おたくか。話聞きたいちゅうんは。
わいも最近ヒマでな。法律できたやろ。あれできてから商売あがったりでな。なんや話せばこづかい稼ぎになるゆうの聞いてな。
大洋ジャンボの事故か。よう覚えてんで。あんときはごっつい騒ぎやった。
「郡司組の核弾頭」いうたらナンバで知らんもんはおらんかった頃や。自分でも手がつけられんかった。さわるものみんな傷つけたて、アレわいのことやったな。
パシリから十年近うシンボウして下のもんもついてきて、バッタもんのブランド品扱わせたりしてブイブイいわせとった。ほんでも上にも納めんならんし、金がいくらあっても足らんかった。そんときにあの事故が起こったんや。
ナンバで呑んどったんや。店のテレビつけたら飛行機落ちとんねん。「ウンの悪いヤツおるのお」ゆうて、ゲラゲラ笑うてたんやみんなで。しこたま酔うて家に帰ったら嫁が真っ青になって「あんたどこ行ってたん、お義姉さんの乗った飛行機落ちたで!」言うて。ほんま腰抜けるかと思うたわ。
姉ちゃんとはずいぶん会うてなかった。最後に会うたんはおかんの葬式やったかな。
おかん、男んとこで倒れたんや。脳梗塞いうんか、ぽっくり逝きよった。あっけなかったのう。これからやっと楽さしたろ思うてたのに、おかんは姉ちゃんとわいが更生した後も、かんぴょうみたいな乳ぶら下げて仕事続けとったんや。なんぼ働きもんゆうたかて死んだら意味ないで。そばに子供おったけど、おいおい声あげて泣いてしもうたわ。
久し振りに会うた姉ちゃんと話したら、東京に出て錦糸町のフロ屋で働いとる言うやないか。ひからびたドジョウみたいな顔してな。腕に注射の痕もあった。やめさせたかったんやけど、わいが止めたところでどうにもならんかった。親子して貢ぐ体質なんやろなな。こういう話、よう聞くやろ。つくづくウンのない女や思うたで。思い出しても泣けてくるわ。
五つ上や。わいの代わりにオヤジによう殴られてたわ。オヤジは働かへんことが仕事だと思うとるような男やったから。あんなもんカスや。わいや姉ちゃんが食うや食わずやいうのに、金のブレスレットちゃらちゃらいわせてのう。これはちゃうで。自前や。いたやろ、むかしパーマあててごっついメガネした、センスのかけらもない。任侠? とんでもない。わいに言わせたらあんなもんただのチンピラや。ヒモや。どうしようもないで。あんな男にだけはなりとうない思うて、わいは突っ走ってきたようなもんや。
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