ナニ勝手に人の命に値段を付けとんのや! 何様じゃドアホ!

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。武久恭介の証言、前編です。
『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さんが、満を持して放つ巨篇『アクシデントリポート』を特別掲載いたします。

「『郡司組の核弾頭』いうたらナンバで
 知らんもんはおらんかった」

武久恭介(25)の証言

 おたくか。話聞きたいちゅうんは。

 わいも最近ヒマでな。法律できたやろ。あれできてから商売あがったりでな。なんや話せばこづかい稼ぎになるゆうの聞いてな。

 大洋ジャンボの事故か。よう覚えてんで。あんときはごっつい騒ぎやった。

「郡司組の核弾頭」いうたらナンバで知らんもんはおらんかった頃や。自分でも手がつけられんかった。さわるものみんな傷つけたて、アレわいのことやったな。

 パシリから十年近うシンボウして下のもんもついてきて、バッタもんのブランド品扱わせたりしてブイブイいわせとった。ほんでも上にも納めんならんし、金がいくらあっても足らんかった。そんときにあの事故が起こったんや。

 ナンバで呑んどったんや。店のテレビつけたら飛行機落ちとんねん。「ウンの悪いヤツおるのお」ゆうて、ゲラゲラ笑うてたんやみんなで。しこたま酔うて家に帰ったら嫁が真っ青になって「あんたどこ行ってたん、お義姉さんの乗った飛行機落ちたで!」言うて。ほんま腰抜けるかと思うたわ。

 姉ちゃんとはずいぶん会うてなかった。最後に会うたんはおかんの葬式やったかな。

 おかん、男んとこで倒れたんや。脳梗塞いうんか、ぽっくり逝きよった。あっけなかったのう。これからやっと楽さしたろ思うてたのに、おかんは姉ちゃんとわいが更生した後も、かんぴょうみたいな乳ぶら下げて仕事続けとったんや。なんぼ働きもんゆうたかて死んだら意味ないで。そばに子供おったけど、おいおい声あげて泣いてしもうたわ。

 久し振りに会うた姉ちゃんと話したら、東京に出て錦糸町のフロ屋で働いとる言うやないか。ひからびたドジョウみたいな顔してな。腕に注射の痕もあった。やめさせたかったんやけど、わいが止めたところでどうにもならんかった。親子して貢ぐ体質なんやろなな。こういう話、よう聞くやろ。つくづくウンのない女や思うたで。思い出しても泣けてくるわ。

 五つ上や。わいの代わりにオヤジによう殴られてたわ。オヤジは働かへんことが仕事だと思うとるような男やったから。あんなもんカスや。わいや姉ちゃんが食うや食わずやいうのに、金のブレスレットちゃらちゃらいわせてのう。これはちゃうで。自前や。いたやろ、むかしパーマあててごっついメガネした、センスのかけらもない。任侠? とんでもない。わいに言わせたらあんなもんただのチンピラや。ヒモや。どうしようもないで。あんな男にだけはなりとうない思うて、わいは突っ走ってきたようなもんや。

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アクシデント・リポート

樋口毅宏

御巣鷹山の悲劇は空前絶後ではなかった。史上最悪の航空機事故は仕組まれたのか。幾人もの事故関係者と遺族、生存者の証言から浮かび上がる謎の数々。刊行自体が「アクシデント」な劇薬小説。 『タモリ論』で「いいとも」終了を予見した樋口毅宏さん...もっと読む

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