ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ /キャシー・ハーシュ=パセック
クリティカル・シンキング……批判的な思考力はどう育っていくのか?
優れた人間に欠かせない能力のひとつ、クリティカル・シンキングはどのように身に着き、育っていくのか? ここでは赤ちゃんから幼児までのレベル1と児童のレベル2の初期段階について説明していく。
レベル1: 見かけをそのまま信じる
赤ちゃんや幼児は「見た目」で選びがち
私達は、生まれながらにしてクリティカルシンキングができるわけではない。新しい情報を評価するために必要な知識を身につけなければならない。乳幼児はどのように複雑な世界について学んでゆくのだろう。
一歳を過ぎると、どの行動は意味がありどの行動は意味がないか判断できるようになってくる。ハンガリー科学アカデミーの研究室で次のような実験をした。一四か月の赤ちゃんの前に毛布で体を巻かれた女性が現れた。彼女は赤ちゃんに「こんにちは」と言うとテーブルの上に置いてあったライトのスイッチを体を曲げておでこで押して点灯させた。毛布に巻かれていて両手が使えなかったからである。これが正真正銘の「ヘッドライト」!なんていうオヤジギャクはさておいて、赤ちゃんはこの様子をじっと見ていた。一週間後、今度は赤ちゃんをテーブルに置いたライトの前に座らせた。もし赤ちゃんがおでこでライトをつけたら、一週間前に見たことをただ真似したことになる。しかし手でつけたとしたら、見たままではなく自分で判断して行動したことになる。実験に参加した赤ちゃんはどうしたかと言うと、手を使ってライトのスイッチを押した。赤ちゃんは「毛布でぐるぐる巻きだったからあの女の人はおでこを使ったんだよね」と考え、見たままを真似するのではなく自分で状況を判断して行動した。赤ちゃんのこうした行動が批判的で合理的な思考の芽生えなのである。
しかし赤ちゃんはまだクリティカルシンキングのレベルが1なので、いつでも的確で批判的な判断ができるわけではない。どうしても見たり、言われたりしたことを信じてしまいがちだ。ただ信用できる情報を伝えてくれるのは誰かを判断する基盤となる感性は備わっている。
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アメリカの学習科学・発達心理学の第一人者が提唱する「子育て成功への道」
この連載について
ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ /キャシー・ハーシュ=パセック
私たちは勉強ができれば「成功」、お金があれば「幸せ」と決めつけたり、反対に、頭の悪いから「成功」は無理、安楽に生きられれば「幸せ」と思い込んだりしていないでしょうか? しかしそれは、きわめて一面的な「成功」と「幸せ」の定義です。もっと...もっと読む
著者プロフィール
ペンシルバニア大学でPh.D取得。テンプル大学教授。ブルッキングス研究所シニアフェロー。アメリカ心理学会他数多くの学会から長年の卓越した貢献に対して表彰されている。やはりロバータ・ミシュニック・ゴリンコフと共著の『EinsteinNever Used Flash Cards』は世界中で翻訳され、2003年に出版された最も優れた心理学書に贈られるBooks for Better Life Awardを受賞。卓越した研究業績だけではなく、認知心理学・発達心理学の基礎的な研究を教育に活かし、社会に貢献するために様々な重要なプロジェクトに関わり、世界から注目されている。ハフィントンポストの招待ブロガー、ニューヨークタイムスなどアメリカ全国紙での幼児教育・幼児発達についてのスポークスパーソンとしても活躍している。
コーネル大学でPh.D取得。デラウェア大学教授。米国心理学会、科学的心理学会から多くの賞を受賞。研究領域で最も権威ある学術誌『Child Development』の編集委員を務め、150を超える論文、14冊の本とモノグラフを執筆した。優れた研究者である一方、発達科学の知見を一般の人々に広めることに強い情熱を傾け、言語や空間認識の発達、プレイフルラーニングについて親や教育者向けの著書を出し、ラジオ・テレビ・新聞・雑誌などのメディアにも度々登場。世界各地で講演活動も行っている。また、学びと遊びの科学を楽しむイベント Ultimate Block Partyを共著者のキャシー・ハーシュ=パセックとともに始め、NYセントラルパークに5万人もの人を集めた。この企画は現在アメリカ主要都市のみならず世界の都市に広まっている。