寂しいじゃねえか、親子だろ?

【第33回】
面と向かうと、息子と素直に話せない剛田に、サトルは手紙を書くことを勧める。
何度も書き直し、一晩かけて書き上げた手紙を携え、剛田はふたたび息子の元を訪れるが――。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


 剛田と奥村の間の事情にサトルが首を突っ込む必要など、どこにもない。けれど、剛田の心を見てしまった以上は、無関係を決め込んで忘れ去ることなどできなかった。つくづく面倒な能力を持ってしまったものだとため息が出る。

 奥村は、どう思っているのだろう。目を見ればわかるかもしれないが、やはり恐ろしくてできなかった。何度か顔を起こそうと首に力を入れるものの、その度に震えだす手をなだめなければいけなくなる。

「僕と、母さんが、どういう思いで家を出たかわかってるのか? 自分のことしか考えないあんたに振り回されて、何を思っていたか、考えたことはあるか? いまさら親父親父って、父親面するなよ!」

「わかってる。悪いと思ってるって。だから、手紙を」

「こんなもの一枚で、片づくわけないだろ!」

 奥村は、応接テーブルに置かれた封筒を引っ摑むと、ぎゅっと握りしめた。くしゃり、という嫌な音がして紙がよれ、折れ曲がる。剛田が、何をするんだとばかりに腰を浮かせた瞬間、奥村の両手が、封筒ごと手紙を引き裂いた。サトルが、あ! と、声を出した時にはもう、二つに千切れた封筒が、音もなく床に落ちていた。

 この野郎! と、剛田が摑みかかるのではないかと思ったが、意外にも剛田はじっとその様子を見ていた。そして、静かに立ち上がると、いつものように、へらへらとした薄い笑みを浮かべ、だめだこりゃ、とでも言うように、肩をすくめた。

「帰ろうぜ、センセー」

「いや、でも」

「いいんだよ。こんな、態度の悪いガキの相手しててもしょうがねえや。時間のムダってやつよ」

「剛田さん」

「じゃあな、元気でやれよ、バカ息子」

 剛田は、そう言い捨てると、サトルが止めようとするのを振り払い、外に出て行った。姿が見えなくなった瞬間、ああチクショウ! という喚き声が聞こえてきたが、それも次第に遠くなっていった。奥村は、ため息をつきながらソファに腰を下ろし、頭を抱え、髪の毛をくしゃくしゃと搔いた。津田は、じっと腕組みをして座ったまま、何も言わなかった。

「申し訳ありませんでした。寺松先生を、こんなことに巻き込んでしまって」

 少し落ち着いたのか、奥村がそう言って、サトルに深々と頭を下げた。サトルは、恐縮と緊張でしどろもどろになりながら、あ、いや、と、首を振った。

「わざわざ来ていただいたんですけど、僕はやっぱり、あいつを父親と思いたくないみたいで。小さい頃から、泣かされ続けた母の姿も見てきましたし」

 奥村が、顔を伏せたまま、静かに語る横で、サトルは、ゆっくりとテーブルに近づいた。膝を折りしゃがみこむ。目の前には、千切れた封筒が転がっていた。

「先生?」

「金継ぎというのが、あの、あるんですよね」

「金継ぎ? あ、ああ、はい。そうですね」

「陶器は、砕けてしまっても、直せるんですよね」

 サトルは封筒を摑み上げて、津田を見た。津田はまっすぐ前を向いたまま、「左様」とだけ呟いた。 「紙は、そういうわけにもいかないですかね」

「紙?」

「手紙、一生懸命書いたんですよ、剛田さん」

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