僕はあんたを父親だなんて思っていない

【第31回】
長年離れ離れだった父と息子の再会になぜか立ち会うことになった、引きこもりのサトル。
ところが、感動の対面どころか、一触即発の空気になって……。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


「よう、チビスケがデカくなったじゃねえか!」

 サトルに接していた時と同じように、剛田はへらへらとした態度で軽口をたたいた。剛田は奥村に近寄り、握手を求めるように手を出したが、奥村は、数歩下がって剛田から距離を取った。

「なんの用です」

「なんの用って、親父がセガレに会いに来てやってるってのに、理由なんかいるかよ、なあ」

 奥村は、唇をきっと結び、剛田を睨みつけた。懐かしさや感動といった雰囲気はまったくない。なのに、その緊張感を感じ取ってもなお、剛田は頑なに軽口を止めない。

「おまえ、あれだろ、やきもんの賞かなんか獲ったんだろ?」

「あんたには関係ない」

「関係ないことあるかよ。すげえじゃねえか。商売のチャンス到来だぞ」

「あんたには、関係、ない」

「なんだよ、せっかく儲け話を持ってきてやったのによ」

「帰ってくれ!」

 奥村の鋭い声が響いた。さしもの剛田も、ほんの少しだけ顔色を変え、口をつぐむ。だが、顔はまだ笑ったままだ。

「おまえな、親父に向かってそのクチのきき方はねえだろうが」

「残念だけど、僕はあんたのことを父親だなんて思っていない」

「おい、この野郎、もういっぺん言ってみろ」

 ついに、剛田の空気が変わった。咥え続けていた禁煙パイプを乱暴に吐き捨てると、奥村の襟首に摑みかかる。奥村が持っていた茶碗が地面に落ち、乾いた音を立てて砕けた。

「何すんだ!」

 割れた茶碗を見て激高した奥村は、一歩も引かずに応戦し、ついに親子の取っ組み合いが始まってしまった。てめえ、この野郎、という、汚い言葉の応酬が続き、やがて、お互いが額をぶつけて睨み合った。事態に気づいた陶芸教室の生徒たちが悲鳴を上げたが、ほとんど全員、年配の女性だ。男同士の取っ組み合いなど、止めるすべもない。かといって、サトルも足が強張って動かない。

 二人の目は、どれほどの憎悪と悪意を吐き出しているだろう。そんな目を見てしまったら、きっともう立ち直れない。頭を抱えて、サトルはその場にへたり込んだ。こんなことになるなら、家から出るのではなかった、と後悔した。

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