世界第4位の日本人人口の多さ
世界で最も日本人がたくさん暮らしている外国はアメリカで、その数は42万人を誇る。ついで中国、オーストラリアと続き、本書の「主人公」ともいえるタイは第4位、およそ7万人の日本人が生きている。
この数は、ここ10年でおよそ65%も増えているのだ。上位3か国の増加率がわずかなものにとどまっているが、タイの日本人社会はぐんぐんと勢いよく成長している。
なぜだろうか。
それは、円高による製造業の海外移転が進んだことが大きな理由だ。日系企業はこぞって、安い人件費を求めてアジアへと流れていった。中でも、かねてから製造業を中心とした日系企業の下地、広い裾野があったタイに、進出が集中していく。
そしてタイ経済は、2016年以降はやや不調とはいえ、成長を続けている。南国気質ゆえの、旺盛で、奔放とさえいえる消費意欲は魅力だ。いかに節約して生きるか、がテーマになってしまったかのような日本を見限って、タイを巨大市場と捉えてやってくる企業もたくさんある。
しかし、それだけではないのだ。
タイは敬虔な仏教国でもある。日々の暮らしに悩んだら、近所のワット(お寺)に行ってみよう
「マイペンライ」の心意気
タイ人は優しい。そして細かいことを気にしないおおらかさがある。観光立国でもあることからホスピタリティ豊かで「ヨソモノ」でも暮らしやすい、溶け込みやすい気安さがある。そこにホッとさせられる。
そんなタイ人がつくってきた社会は、まさに「マイペンライ」の精神に満ちている。大丈夫、気にしない、心配ない、など、お気楽さや、ゆるやかさを表すタイの言葉。
そしてタイ人は「3つのS」を大切にするといわれる。
サバーイ=快適であること
サヌック=楽しくあること
サドゥアク=便利であること
やや享楽的に過ぎるかもしれないが、人間そのくらいでいいのだ……タイにいるとそんな気持ちになってくる。日本のどこか息苦しい社会がアホらしく思えてきてしまうのだ。
一方で、タイ人は個人主義者である、ともいわれる。求めなければ、こちらに立ち入ってくることはない。よけいな詮索もない。静かに生きようと思うなら、それもいい。その距離感は、日本人には心地よい。
充実した日本的環境
もちろん、いいことばかりではない。タイで働いていれば、はっきり言って腹の立つことばかりである。その理不尽さ、非合理性、不マジメ、テキトー、イイカゲン……なんでもかんでもマイペンライで済ませちゃって、もうちょっとこう、日本人の細やかさを見習ってくださいよ、と。
でも、ふしぎなのである。一瞬イラッとしても、それで終わり。心の底に重く積もっていくようなストレスではない。やっぱりマイペンライには救われているのだ。
こんな風土にあてられて、世界経済の流れもあって、タイに日本人は増えている。
そしてタイ人は極めて親日的であり、日本のものはおおむね好意的に受け入れられている。日本食をはじめとして、さまざまな製品、ファッション、アニメや漫画やコスプレなどがあふれている。その結果、いまや日本とほとんど変わらない暮らしが送れるようになっている。
「世界で最も、日本人が生きやすい外国」タイをそう呼ぶ人もいる。