出版不況!返品の山に埋もれた父から娘への「遺言」

小さな出版社・社長の一人娘、女子高生の美鈴。父の死とともに経理財務担当から伝えられのは、会社が「3ヶ月後つぶれる」という現実。出版不況をさまよう極小出版は、経営をどうするべきなのか? 突きつけられた選択肢とは……。平凡な女子高生が、青春を賭けて、倒産寸前の出版社立て直しに挑む――。「出版業界」のリアルを描き出しながら、必須のビジネス教養も一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第2回です!

売却提案

「3カ月後、つぶれる......」

美鈴は、御園の言葉を聞くうちに、会社が大ピンチにあることを理解したようだった。 それでも、すがるような目で反論した。

「でもさ、ミソじいが社長になるんでしょ。そうすれば、パパと違って、会社の資金繰 りってやつもうまくいくんじゃないの」

「そのことなんだけど......」御園はいいづらそうに言葉を継いだ。「私は社長をやるつもりはない」

「はっ? そうなの......どうして?」

「実は、去年、母親が倒れて、ずっと寝たきり状態なんだ。仕事をしながら介護もしてきたけど、体力的にも負担が大きくてね。もし社長を引き受けることになったとしたら、これまで以上に、仕事に時間をとられることになる。とてもじゃないが、 60歳を超えた体には荷が重すぎる。そういうわけだから、社長はできない」

「ということは、誰が社長になるの?」

「誰も社長にはなりません」

「え? どういうこと?」

一瞬の沈黙のあと、御園は諭すような口調でいった。

「美鈴ちゃん、森下書房を他の会社に売却しようと思っている。だから、美鈴ちゃんにも賛成してもらいたいんだ」

「ば、売却って......?」

「うちの会社は資金繰りがうまくいっていないけど、これまでいい本をつくり続けてきた。今でもロングセラーになっている本も少なくない。自社ビルも持っている。それは、出版社にとって大きな資産なんだ。会社の資産を評価してくれている大手出版社があって、『買収してもいい』といってくれているんだ。経営危機にある森下書房にとっては、願ってもない話だと思うんだけど、どうかな?」

「買収されたら、どうなるの?」

「代わりに銀行の借金も肩代わりしてくれるから、会社をつぶさずにすむ」

「社員の人たちはどうなるの?」

「もちろん、森下書房の社員ではなくなるけど、売却先の大手出版社が社員の雇用は保証するといってくれている。私は責任をとる意味でも、会社を去るけどね」

「そっか......。社員の人たちはクビになるわけではないのね」

「ああ、それは安心してほしい。それに買収されれば、お父さんの株式を相続することになる美鈴ちゃんにも、お金が入ることになる。これから生活費や大学に行く資金も必要だろうから、美鈴ちゃんにとってもいい話だと思う」

「それはありがたいけど......」美鈴は苦悶の表情を浮かべていた。

ずっと父親と一緒に森下書房を切り盛りしてきたミソじいが決断したことであれば、それを尊重すべきだと思う。ミソじいにとっても、自分のつくった会社がなくなるのは苦渋の決断であることは間違いない。そもそも女子高生である私がどうこういえる問題でもない。

でも......本当にそれでよいのだろうか。森下書房がなくなることを、父はどう思うだろうか。

「ねえ、ミソじい。私がどうこういう問題じゃないからミソじいの意見に従うつもりだけど、ひとつだけ聞いていいかな」

「ええ」

「パパが生きていたら、どうしたと思う?」

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石野雄一

小さな出版社の社長だった父の突然の訃報。 あとを継ぎ、社長に就任した女子高生の美鈴。 しかし会社は倒産寸前。銀行への返済期限は3ヵ月。 「出版不況」「返品の山」「使えない編集者」。 次々と難題が襲い掛かる。途方に暮れる彼女の前に 現れ...もっと読む

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