なぜ「黒門市場」は復活し、あの商店街は苦戦しているのか

全国の地方自治体や商店街においては、地域活性化の取り組みが色々櫓行われています。けれども、その大半は一過性の「コト」で終わってしまっていて、継続した「モノ」の消費につながっておらず、そのことで、売り手側も買い手側も「幸せ」になれていないとコピーライターの川上徹也氏は言います。大阪市内にある二つの商店街の事例から、「コト」と「モノ」をつなげるためのヒントを探ります。

 先日、各地で開催される朝市が多くの人でにぎわっているというテレビの特集を見ました。行列をしてまで商品をたくさん買っている人たちはとても嬉々とした表情です。

 それはただ安いから、新鮮だからという理由だけではないと思います。
 消費者にとって「買いたいモノがある」ことはとても幸せを感じることなのです。
多くの人が「特に欲しいモノがない」という時代だからこそ、「買いたい気持ちにさせてくれる店」は、とても貴重な存在だと言えるのです。

 全国の地方自治体や商店街などでも、地域活性化の取り組みが色々と行われています。

 けれども、その大半は一過性の「コト」で終わってしまっていて、継続した「モノ」の消費につながっていないのではないでしょうか?
 それが、売り手側も買い手側も「幸せ」になれない原因だと思うのです。

 では、どのようにすれば「コト」を「モノ」につなげることができるのか?

 この記事では、2017年夏時点において、「コト」をうまく「モノ」につなげることで、とても繁盛している商店街と、せっかくの「コト」をうまく「モノ」につなげることができずに苦戦している商店街を紹介します。

 どちらも大阪市内にある商店街の事例です。

商店街全体をフードコートにして成功した「黒門市場」

 大阪のミナミ・日本橋駅近くに「黒門市場」という商店街があります。
 江戸時代からの起源をもつ由緒ある商店街で「ミナミの台所」と呼ばれ、特に近くの飲食店などプロが利用する市場として知られていました。
 冬場は「ふぐ」を扱う鮮魚店が多いのも特徴です。お正月に自宅で「てっちり(ふぐちり)」を食べる風習がある大阪の人にとっては、黒門は年末に「ふぐ」などの海鮮品を買い出しにいく市場というイメージでした。

 しかし数年前までは、年末以外はかなり寂れた状況になっていたといいます。そんな黒門市場が今、とんでもないことになっていると聞き、2017年夏、大阪出張の時に訪れてみました。

 噂には聞いていましたが、商店街は異様なにぎわいをみせていました。私の記憶にあった風景とはまったく違っています。訪れたのは土曜日の午前中でしたが、かつてプロや地元民が買い出しに行く市場だった場所は、アジア系の外国人観光客たちでごった返す一大観光スポットに変貌していました。多くの人たちが和牛串焼きなどを食べながらスマホで自撮りしていたり、家族連れで大きなスーツケースをひいたりしているので、歩くのも一苦労です。

 彼らの一番の目的は「食べ歩き」です。とにかく買ったものはすぐその場で食べられるようになっています。多くの店舗が、店頭でほたて、カキ、海老、カニなどの海鮮品や和牛を焼いて提供していました。大きなウニも殻ごと置かれています。その場で殻をむいてスプーンですくって食べるのが流行っているようです。あと、大トロの寿司や刺身も大量に置かれています。青森の「のっけ丼」のように、いくつかの刺身を選んで海鮮丼にしてくれる店もありました。

 店先にテーブルを出していたり、奥に大きなイートインスペースがあったりする店も多くありました。メニューには中国語や英語が併記されています。夏場だったので、さすがに「ふぐ」を置いている店は少なかったのですが、冬場はてっちりセットを買うと、その場で鍋にして食べることもできるそうです。

 果物屋さんも大繁盛していました。日本の高級フルーツは外国人観光客にとても人気があるようです。こちらもその場でカットして食べられるようにしてくれます。

 とにかく外国人観光客が「食べたがる」商品を知恵を出し合ってならべているという印象です。値段は海鮮も和牛も果物も、日本人の私には高いと感じてしまうものも多いのですが、外国人観光客は多少高くても平気で買っていきます。

 一方でそうした外国人観光客向けの商売をせず、昔ながらの商売をしているような鮮魚店や、良心的な価格で売っている和菓子屋さんなども一定数ありました。

 Wi‐Fi完備の無料休憩所もあります。購入したものを座って食べるイートインスペースとしても利用でき、各国語でのガイドブックやトイレ、自販機なども完備しています。休憩所内に多くのガチャガチャが置いてあったことも印象的でした。ここで小銭を消費してもらうということでしょうか。この付近は、以前は客数の少なさが課題になっていたそうですが、この休憩所ができたことにより、お客さんの流れをつくることに成功したそうです。

 黒門市場に外国人観光客が押し寄せるようになったのは、まだ数年前です。

 もともと、寂れていく一方だった商店街に危機感を覚え、2010年頃から数店舗が周辺のホテルの情報誌などに情報を掲載するようになったのがきっかけでした。2013年、大阪市の補助金で、「黒門市場特集」のパンフレットを日・英・中・韓の四カ国語で作ったことで、一気に外国人観光客が増え始めました。

 当初は「従来のお客さんに迷惑になる」という声も根強くありました。しかしせっかく観光客が来てくれているんだから、やるなら徹底してやろうと、「食べ歩き」をコンセプトに「黒門市場全体を巨大なフードコートにする」と商店街の組合で決めました。

 そして各店舗がそれぞれのやり方で工夫することにより、SNSなどの口コミで評判が広がり、今のようなカオスでありながらにぎわいのある商店街になったのです。当初は、鮮魚店ばかりが売れて他の店は恩恵を受けないのではと思われていましたが、他の業種にもきちんと波及効果がありました。私が見学に行った時も、靴下の専門店やドラッグストアなども大勢の観光客でごったがえしていました。

 また外国人観光客が増えたことでニュースになり、今まで来なかったような日本人の若者が訪れるようになったといいます。他県からの観光客はもとより、地元大阪においても格好のデートスポットになっているのです。

 こうして黒門市場は10年前に比べると、飛躍的に繁盛している観光商店街に生まれ変わったのです。

 もし、観光客が増えるという「コト」があったとしても、店主たちが工夫して「モノ」につなげていなかったらどうでしょう? ただ見学するだけに終わって、このような繁盛はなかったでしょう。

 放っておけば見学(コト)だけに終わっていたのを、きちんとモノにつなげたことで、黒門市場の今の繁盛があるのです。

 もちろん一方で、特に昔を知る地元民には、今の様子に強い違和感を抱いている方々も大勢いるとは思います。またこのようなバブル的な状況がいつまでも続くという保証もありません。

 とはいえ、以前のような、寂れていく状態がよかったとは誰も言えないでしょう。

 一方、せっかくの「コト」をうまく「モノ」につなげることができなかった商店街もあります。

ポスター総選挙というコトを生かしきれない「文の里商店街」

 大阪市阿倍野区昭和町にある文の里商店街は、昭和時代にはかなりにぎわっていた市場です。しかし平成に入り、日本全国の多くの市場と同じように寂れていき、シャッターを下ろしたままの店も増えていました。

 2013年、この商店街が突如として全国的に大きな注目を浴びました。

 この商店街の各店舗で制作された「広告ポスター」がおもしろいとネットで話題になったのです。

 もともとは、商店街の活気を取り戻そうと、大阪商工会議所&文の里商店街が、電通関西支社にPRポスター約200点の制作を依頼したことが始まりでした。そして電通関西の若手デザイナーやコピーライターら60人が、店主らと交流を重ねながらボランティアでポスターを作ったのです。

 これらのポスターは、2013年8月から12月まで、商店街で掲示され、総選挙と銘打って人気投票を行いました。投票総数は約6700票。期間中の客足は倍増し、府外からも見物客が訪れるなど、関係者の予想を上回る集客効果を生み出したといいます。
 さらにポスター総選挙が終わってからも、「文の里商店街のポスターがおもしろい」とネットで何度も話題になりました。また色々な広告賞を受賞しました。

 この取り組みはイベントとしては大成功と言っていいかもしれません。実際、メディアでは商店街活性化の成功事例としてよく取り上げられていました。

 私がこの取り組みをネットで知ったのは2014年春になってからです。

 実はこの文の里商店街、私の実家から地下鉄で一駅、自転車で10分程度の場所にあり、幼い頃母親に買い物でよく連れていってもらった思い出の場所でした。
 インターネットで記事を読み、懐かしさがよみがえりこれは見学に行かなくてはと、大阪出張の時に足を延ばしました。ポスター効果でどんな風ににぎわっているか楽しみに訪れたのです。

 しかし現場に行った私は愕然としました。

 ポスター総選挙が終わって数カ月がたち、写真で見たようなにぎわいはまるでなかったのです。期待値が高かったことと、昭和のにぎわいを知っていたことで余計にそう思ったのかもしれません。それにしてもネットで話題になっていたポスターも見当たらない。よく探すと、店の上の方に貼ってある店もありましたが、すでにヨレヨレになっていました。

 ある店の店主に、「ポスター効果ありましたか?」と訊ねると「その時だけお客さんは来たけどモノはぜんぜん売れへんかった」とボヤいていました。

 たしかにお客さんがポスターのおもしろさに惹かれて来たとしても、店自体にそれに見合うようなおもしろさはありません。コトとモノがつながっていないのです。買いたい気持ちも当然湧き上がりません。もちろんその場で食べるようなスペースもないですし、買っても持ち運びに困ってしまいます。これでは「コトを売るバカ」状態で、ネットでポスターを知って見学に来た人も商品を買った人は少なかったに違いありません。

 ポスターを作ったクリエイターたちは責められないでしょう。「とにかく話題になるものを作れ」というミッションにしたがってそれを全うしたわけですから。

 本来であれば、黒門市場の店主が行ったように、それぞれの店主が工夫してポスターにつながるような売り方をすべきだったのです。しかし、高齢化が進む店舗にそれを求めるのは難しいかもしれません。「コトを売るバカ」にならないよう誰かが表現と店舗の商品とをつなぐことを考えなければならなかったのではないでしょうか?

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コト消費」の嘘

川上徹也

連日メディアをにぎわす「コト消費」という言葉ですが、言葉に踊らされて「コト」だけを売り、売上に結びついていない事例も少なくありません。また「コト=体験」といった表層的な理解で語られることも多いのが実情です。「コト」と「モノ」をきちんと...もっと読む

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