お金の発展——商品の王様として成立した貨幣
一つの方法はボトムアップ、つまり庶民の生活の中で自然にお金となるケースです。これにはよく言われるものとして、カール=メンガーのお金の定義である「販売可能性が高い商品」というものがあります。メンガーは私の修士論文のテーマでした。
図を見てください。一次財、二次財、高次財と書いてあります。例えば、木屑よりも木、木よりも森の方が高次だということです。上にいくほど汎用性がある。つまり下にあるものを補完できる。だからより高次な、つまりみんなが欲しがるものの頂点にあるのがお金であるという考え方です。ボトムアップで発生したものがお金ということです。近代まではみなさんがよく知っている鉱物資源がお金になっています。
金が商品の王様、つまりお金そのものだった時代がありますが、みなさんは忘れているかもしれません。わずか数十年前の話です。今はお金を銀行に持って行っても金に交換してくれません。では未だに金はお金なのか? というとそれはもはやお金とは言えないですね。金の延べ棒を持っている人は、あまりいないのではないでしょうか。鉱物としての金は有益性があり、いろいろなものに使えますが、機能的にももっといいものが出てきていますから、金はお金にならないぞという風になってきました。みんなが求めないものはもはやお金にはなりえないのです。
このようにボトムアップのお金は時代ごとにあくまで流動的であり、お金をお金たらしめる物体は変動するのです。
王様の権威と商人の信用によって生まれたお金
もう一つはトップダウン、つまり王様の権威から生まれたお金です。
17世紀の終わりにはヨーロッパではもともと国内で取引を行っていた商人が集まって、国際金融ネットワークができていました。すでに述べたように彼らの信用できるクラブでは、互いの信用をもとにした私的取引の貸借ができるようになってきていました。しかしこれでは、取引できる人々やその範囲が限定されてしまいます。商人は困りました。もっと大きな取引を行うには王様と手を結ぶしかありません。こうして王様の権威と商人の信用の両陣営が組んで1696年にできたのがイングランド銀行という初めての中央銀行でした。
Finance(ファイナンス)にはラテン語で「王の蔵」という意味があります。
現代のお金も権力や権威と結びついている
みなさんが知っている中央銀行は日本銀行ですね。日銀の株主構成を見ると政府機関ではなく意外なことに民間資本が入っているとわかります。その株主にはユダヤ系の資本も入っています。ユダヤ人は古くから金融業に従事していたこともあり、資本主義の発展に伴い大きな力を持つようになりました。それを元に、ユダヤ人が世界を支配していると言われたりしていますが、それには私は懐疑的です。
この本を最後までお読みになればわかるようにお金を支配することなど誰にもできません。現在は日本銀行が発行しているお金ですが、人々の共通認識である「お金」とはどこから来ているのでしょうか?
今のお金は、権威や権力が結びつかないとお金として成立しません。『貨幣論』(ちくま学芸文庫)で有名な経済学者の岩井克人先生は「お金は皆がお金であると信じるから、お金である」と言っています。これは循環論法と言い、信用があり、なんとか引き取ってくれる人がいるということを前提として成り立っているということを意味しています。なんだか禅問答のようですが、多くの人がこのお金は価値がない、紙クズだと思うとそれはもうお金としてちゃんと流通しなくなります。
では、お金とは何なのでしょうか?
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