ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ /キャシー・ハーシュ=パセック
もう知識をたくさんもっていても大した意味はない……コンテンツ
「私に話すなら私は忘れる。私に教えるなら私は覚える。私に関わらせるなら私は学ぶ」(ベンジャミン・フランクリン〔政治家・学者・実業家〕)
これからの世の中を生き抜いてゆく子供達にとって必要な資質・能力を、テストの点数で判断などできない。
テストのために宣誓!? 知識コンテンツの詰め込み
二〇〇五年初頭、フロリダ州知事のジェフ・ブッシュはまだ幼稚園に入る前の四歳児全てを無償で教育することを認める法律に署名した。この動きは早期教育に対する国家の方針が変わりつつあった時に、その流れを決定づけた。数か月後、私達はフロリダで開かれた早期教育に関するカンファレンスに招待され、講演した。そこに集まった日焼けした教師や政策立案者達は、読書する時の大脳の働きに関する最新の知見や語彙を増やす画期的な方法について熱心に耳を傾け、ここで学んだことを新しく作られる教室ですぐに使おうと目論んでいた。
講演後の質問タイムに三年生を受け持っている若い先生が「『FCATの宣誓』を聞いたことがありますか?」と聞いてきた。彼女は立ち上がり、右手を胸の上に当てて、毎日彼女のクラスの三年生が暗誦している言葉を唱え始めた。FCATとはフロリダ理解力評価テスト(Florida Comprehensive Assessment Test)の頭文字で、毎春三年生になった子供達が受ける学力テストのことだった。
私はベストを尽くします。
私は集中します。
私はよく寝て、朝ごはんをしっかり食べます。
私は諦めません。
私は時間をかけてじっくり勉強します。
私達は強いショックを受けた。この場は学びを愛する心を育てることを目標に、プレイフルで刺激的な方法を学び合うためのものと思っていたからだ。しかし実際の教育現場では、三年生は毎日州の学力テストのことを考えて宣誓を暗誦しているのだ。最早この誓いは「アメリカ合衆国への忠誠の誓い(Pledge of Allegiance)」に取って代わるものになりつつあったのだ。これからの世の中を生き抜いてゆく子供達にとって必要な資質・能力をテストの点数で判断などできないのに……。
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この連載について
ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ /キャシー・ハーシュ=パセック
私たちは勉強ができれば「成功」、お金があれば「幸せ」と決めつけたり、反対に、頭の悪いから「成功」は無理、安楽に生きられれば「幸せ」と思い込んだりしていないでしょうか? しかしそれは、きわめて一面的な「成功」と「幸せ」の定義です。もっと...もっと読む
著者プロフィール
ペンシルバニア大学でPh.D取得。テンプル大学教授。ブルッキングス研究所シニアフェロー。アメリカ心理学会他数多くの学会から長年の卓越した貢献に対して表彰されている。やはりロバータ・ミシュニック・ゴリンコフと共著の『EinsteinNever Used Flash Cards』は世界中で翻訳され、2003年に出版された最も優れた心理学書に贈られるBooks for Better Life Awardを受賞。卓越した研究業績だけではなく、認知心理学・発達心理学の基礎的な研究を教育に活かし、社会に貢献するために様々な重要なプロジェクトに関わり、世界から注目されている。ハフィントンポストの招待ブロガー、ニューヨークタイムスなどアメリカ全国紙での幼児教育・幼児発達についてのスポークスパーソンとしても活躍している。
コーネル大学でPh.D取得。デラウェア大学教授。米国心理学会、科学的心理学会から多くの賞を受賞。研究領域で最も権威ある学術誌『Child Development』の編集委員を務め、150を超える論文、14冊の本とモノグラフを執筆した。優れた研究者である一方、発達科学の知見を一般の人々に広めることに強い情熱を傾け、言語や空間認識の発達、プレイフルラーニングについて親や教育者向けの著書を出し、ラジオ・テレビ・新聞・雑誌などのメディアにも度々登場。世界各地で講演活動も行っている。また、学びと遊びの科学を楽しむイベント Ultimate Block Partyを共著者のキャシー・ハーシュ=パセックとともに始め、NYセントラルパークに5万人もの人を集めた。この企画は現在アメリカ主要都市のみならず世界の都市に広まっている。