改良に次ぐ改良で快適さを増すベースキャンプ
霧穴の入り口から1時間ほどのところにつくったベースキャンプは、まさに洞窟内における〝オレたちの家〟みたいな場所だった。
ベースキャンプは日々進化して、ものすごい勢いで快適性を増していった。
最初のころは、天井から水滴がぼたぼた落ちてきて、寝袋やそのほかの装備、食材がビチャビチャに濡れてしまっていたのだが、でっかいブルーシートを持ち込んで天井に張ってからは、いつも乾いた状態をキープできるようになった。
さらに床にもシートを広げて、マットを敷いたら、快適さは格段にアップ。ゴロゴロするのも楽しくなった。
食材置き場や、探検中にドロドロになったつなぎの服やグローブなどを吊るせるようにハンガーを下げるスペースも作った。
ちなみに、着替えは基本的に持って行かない。洞窟内は湿度が高いため、濡れた服を干しても乾かないし、着替えたとしても濡れた服が荷物になるだけだ。
服が濡れてしまったら、着たまま体温で乾かすしかない。
3回目ぐらいにベースキャンプに入ったときには「地上と連絡が取れないと不便だな」と思い、入口からベースキャンプまで600メートルぐらいのケーブルを引っ張り、インターホンを置いた。
すでに洞内に先発メンバーが入っているときなどは、後発メンバーは霧穴の入口でインターホンを鳴らし、「今から下ります~」とベースキャンプにいる仲間に連絡。
ベースキャンプにいるメンバーは、「あと1時間後ぐらいに来るから、オレたちもそろそろ起きようか」と後発メンバーを受け入れる準備をはじめたりした。
キャップライトの明かりだけで食事や作業をしていると疲れてしまうので、「ベースキャンプに滞在しているときの照明がほしい」となったときには、最初はガスランタンを洞内に持ち込んだ。
しかし、大量にガス缶を持ち込んだときに、破損した缶から気づかぬうちにガスが漏れて洞内に充満するという事件が起こったため(もし誰かがライターの火をつけようものなら、大爆発を起こして全員アウトだった……)、「ガスは危険だ」となった。
とはいえ、電池式のランタンだとすぐに電池切れになってしまって非効率だなと考えていたところ、仲間の一人が電圧の下がった電池の電力を集めるシステムを自作。
洞窟内を探検する際、キャップライトでまわりを照らすのだが、すこしでも暗くなると目が疲れるため、電池はいつも残量を残したまま交換していた。
それまではその使いかけの電池はゴミとしてどんどんベースキャンプに溜まっていたのだが、それを活用しようというアイデアだった。これぞエコ、というべきか。そのシステムが設置されて以降、その日に使った全員分の電池を集めて、ベースキャンプを明るく照らせるようになった。
このように何もなかった洞窟内にいろいろな道具を持ち込んでいったのだが、挙げ句の果ては「平らな部分が少ない」という意見が出て、数日かけて床面を平らにならしてしまった。
それまでは人が多いと、何人かはすこし傾斜があるところで寝なければならず、寝ている間にだんだんと滑っていって、そばを流れる地下水の川に落ちるということがあった。
しかし、地面をならしてからは、20人ぐらいは平らな場所に寝られるだけの広いスペースができたのだった。
洞窟探検における食事&ウンコ問題
洞窟内に泊まるようになると、付随して「生きるうえで欠かせない2つのこと」についても考えなければならなくなる。
そのひとつが「食事」。
山でも、洞窟でも、自分たちで食べるものを運ばなければならない場合、真っ先に考慮するのは重量ではないだろうか。 重ければ重いほど、運搬する負担が大きくなるからだ。
だが、オレたちは試行錯誤の末、内容優先で、軽量化にはこだわらないことにした。
真っ暗闇の中で活動をする洞窟探検は、心身にものすごいストレスがかかる。洞窟内に泊まり、滞在時間が長くなればなるほどストレスは蓄積し、3、4日も経てば「もう出たい」となってしまう。
それはどれだけ洞窟が好きな人間でも、だ。
そのストレスをいくらかでも軽くするために、毎日「飯を食うのが楽しみだ!」と腹の底から思えるぐらい食事は豪華にした。
ホットケーキ、すき焼き、うどん、卵かけごはん……いろいろ作ったが、一番人気はやはり鍋だ。
5人くらいのメンバーで長い休みに10日ぐらい洞内にいるときには、鍋用に白菜をまるまる5個ぐらい持ち込んだりもした。
長期間洞窟に入っていると、足りなくなる食材や、途中で無性に食いたくなるものが出てくる。
そんなときはメンバーの入れ替えのとき、ひと足先に外に出るメンバーに「後発隊に肉と白菜を持ってくるように言っておいて」と頼んでおく。
洞窟を出たメンバーは後発隊に電話をして、「肉5キロと白菜2個、持って行ってあげて」と連絡。依頼を受けた後発隊は、洞窟に入る前にスーパーに立ち寄ってリクエストのあった食材を調達する……と、こんな補給の流れがいつの間にか出来上がって、長期の探検もスムーズにできるようになった。
そのほか、洞窟の食事でもっとも大事なことは、すべてをちゃんと食べ切ることだ。
食べ切れなくても、洞窟内に捨てたりしたら洞窟内の生態系を壊してしまうので、残飯は持ち帰らなければならない。
白菜の芯や玉ネギの皮など、ゴミと思うようなものもすべて鍋に入れる。
麺類のゆで汁も、捨てずに全部スープにして飲み切るのが鉄則。
乾麺のうどんを持って行ったときは大変だった。
お湯を沸かした鍋に乾麺と赤味噌をぶち込んで、そのまま直に食べたのだが、乾麺の塩分が溶け込んで、かなり塩辛くなる。1回目は普通に汁を飲めたが、2回目でギリギリ限界に。3回目になるとスープがあまりにも塩辛くて、どうにもこうにも飲み切れなくなってしまった。
仕方なく、空のペットボトルに鍋の汁を全部入れて、持って上がった。
それ以後、「乾麺はダメだ」となり、ゆで麺を持っていくようになった。もちろん乾麺よりもかさばり、100個ぐらい持っていくとかなりの重さになるのだが、旨い飯を食うためにはしょうがないと割り切っていた。
多いときには何百キロという食材を洞内に持ち込むことになるのだが、それに関して文句を言うメンバーは誰一人いなかった。全員が旨い飯を食うために苦労を厭わず、大量の食材を洞窟内へ運んだのだ。
口から体内に入れる食べ物と同じぐらい重要なのが「出すこと」。
そう、ウンコ&おしっこ問題だ。
食べ残しと同じように、ウンコやおしっこも洞窟内には残せない。なぜなら、自分たちが愛する洞窟を自分たちで汚すなんてことは絶対にできないからだ。それにベースキャンプの近くでやって、そのまま放置すれば、風向きによってはベースキャンプにウンコ&おしっこの何とも言えない香りが漂ってきて、たまったものではない。
ということで、当初から、おしっこは空になったペットボトルに、ウンコはジップロックのような密封できるビニール袋に入れて、100%持ち帰るようにしていた。
1回の探検で洞窟内に入っている期間が長くなってくると、おしっこを500ミリリットルのペットボトルに入れて持ち帰る方法では、本数が途方もない量になるし、おしっこの回数が多い人はペットボトルの数が足りなくなるので、ベースキャンプに2リットルの容器を並べておくようになった。
以後、各メンバーは1日の探検を終えてベースキャンプに戻るたびに個人用ペット ボトルから共同の容器へ漏(じょう) 斗(ご) を使っておしっこを移し替えるのが日課となった。
ちなみに、みんなのおしっこがブレンドされた容器は、じゃんけんで負けたメンバーがリュックに詰めて洞窟の入口まで持って上がり、さらに車に積んで持って帰るというルールも決まり、それは現在に至るまで徹底されている。
一方、ウンコのほうはしばらく試行錯誤が続いた。
最終的に行き着いたのは、「ウンコはヘルメットの中へ」!!??
行動中はジップロックに出して、出した人が責任を持って管理することになったが、問題はベースキャンプでするウンコだった。
最初は、蓋付きの防水タンクに大きなビニール袋を広げて、そこでぶりぶりとやっていた。
だが、その方法だと2回目以降の人が蓋を開けるとモワァァ~~ンと臭いが立ち昇り、ウンコをする当人は「うぇぇ」とえずきながらも息を止めれば我慢できないことはなかったが、風の向きや強さによってはウンコの臭いがベースキャンプの居住空間にまでぶわーっと流れ込んできて、全員が最悪最低の気分を味わうはめになった。