教師だけど、人付き合いが苦手です

【第30回】
剛田と名乗るガラの悪い男は、息子に会いに行くらしい。
息子・太一は、サトルの昔の教え子だった。
サトルは当時を思い出す。新任教師だったあの頃から、自分は人付き合いが苦手だった――。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!

 奥村太一のいたクラスを受け持ったのは、サトルがまだ一年目の新任教師だった頃、もう二十年以上前の話だ。

 運動会の日、午前の部が終わって、昼食の時間に入った。校庭のトラックを取り囲むように、色とりどりのレジャーシートが敷き詰められて、子供たちが楽しそうに家族と弁当を食べている。いつもの給食とは違って、特別感があるのだろう。はしゃぐ子供たちの姿が印象的だった。

 そんな中、校庭の隅で弁当を食べている子供がいた。奥村太一だ。

「隣、いいかな」

 彼の両親が離婚し、母子家庭であることは、担任として把握していた。母親はきっと、仕事で来られなかったのだろう。彼は、同級生たちの視線から逃れるように、独りでいた。

「いいけど」

「ありがとう」

 並んだところで、何を話せばいいのかがわからなかった。彼がどういう気持ちでいるのか想像もつかなかったし、教師としての経験も未熟だった。そもそも人と話すのが苦手なのに、無理をして隣に座ったのだ。気の利いた言葉など、出てくるはずもなかった。

「何が好き?」

「なにが?」

「学校の勉強」

 とにかく会話を、と思ったサトルは、彼の隣で弁当を食べながら、当たり障りのない会話を振った。無視されるかとも思ったが、彼は、視線は寄越(よこ)さずに、言葉だけを返してきた。

「図工」

「図工? どうして?」

「誰ともしゃべんなくて済むから」

 なるほどね、と、サトルは頷いた。

 彼は、やってきたばかりの転校生だ。都会育ちのせいか、なかなか上手くクラスに馴染めず、休み時間も窓際の自席に座ったまま、ぼんやりと外を見ていることが多かった。いつも伏し目がちで、人と目を合わせない。クラスメイトに対して、心を閉ざしてしまっているように見えた。

「先生も、運動会のときは独りだった」

「なんで?」

「うちは、お店をやってたからね」

 無言のまま、しばらくの間、サトルは彼と並んで弁当を食べた。風は少し肌寒いが、五月(さつき)晴れの、気持ちのいい日だった。

「寂しかった?」

 唐突に、彼は口を開いた。相変わらず、顔は下を向いたままだ。視線は交わらない。

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