助けてよ! 超能力者!

【第25回】
夜の学校、サッカー部の部室から火が出た。
キャプテンの来栖先輩がタバコを吸っていたせいだと疑われている。
先輩がそんなことするわけない!
「助けてよ! 超能力者!」活動停止の危機に、親友からすがられた彩子は――。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!

 水が流れる。彩子は、手を洗う。

 四年前の祖母の三回忌。親戚一同の前で父親に「汚い」と言われた彩子が、洗面所に向かおうとして踵を返すと、目の前に、10という数字の書かれた、シュンスケの背中があった。思わず手を前に出し、ぶつからないようにする。手が、シュンスケの体に触れた瞬間、不思議なことが起こった。

 言葉では言い表せない感覚。無数の映像がぐるぐると頭の中を巡り、同時に、感情そのものが、彩子に流れ込んでくるようだった。直感で、これがシュンスケの記憶や感情なのだ、ということがわかった。

 映像は、断片的なものだ。サッカーボール。それを蹴る足。小さい足だ。やがて、中学か、高校の部活動のような風景が見えてきた。目の前で試合が行われている。だが、シュンスケは、それを少し離れたところから見ている。ピッチの中には、背番号10をつけた選手がいた。

 場面が変わる。シュンスケはまた、遠くから試合を見ている。心臓の鼓動が速くなる。応援しているチームのフォワードが、シュートを放った。心が躍る。だが、スローモーションのようにゆっくりと飛んでいくボールは、ゴールポストに直撃する。あと、十センチくらい右にずれていたら、間違いなく決まっていただろう。

 悔しい、辛い。

 心臓に爪を立てるような痛みを感じながら、最後に見えたのは、ユニフォームだ。背番号が書かれていない、無地のユニフォーム。アイロンが押し当てられて、背番号のワッペンがくっつく。背番号は、10だ。

 彩子の頭の奥に吸い込まれるようにして、脳内に渦巻いていたものは、姿を消した。目の前には、シュンスケが立っていて、おい、大丈夫か? と、怪訝(けげん)そうに彩子を見ていた。

 大丈夫、とだけ返して、彩子は洗面所に閉じこもった。今見たものがいったい何なのか、何が起きたのかがわからなかった。だが、はっきりとわかったこともある。

 —高校時代は、背番号10のエースだったんだぜ。

 得意げな顔で、ユニフォームの番号を見せる、シュンスケの顔が浮かんだ。だが、彩子の中に流れ込んできた、記憶の中のシュンスケは、いつもベンチの外から試合を見つめていた。中学校、高校。一生懸命練習しても、他の部員たちよりも上手くはならなかった。レギュラーはおろか、ベンチにも入れない。サッカーが好きだ、という気持ちとは裏腹に、記憶とともに保存された感情は、悔しさや、辛さ、悲しさ。そんなものばかりだった。

 せめて、従妹(いとこ)の彩子の前では、「サッカーの上手いお兄ちゃん」でいたかったのかもしれない。誰もいない家の中で一人、シュンスケは、買ってきた背番号10のワッペンを、アイロンでユニフォームにくっつけた。背番号の入っていない、自分のユニフォームに。

 全部、噓だったんだ。

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行成薫

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