洞窟ばか

未踏の洞窟に興奮しすぎ道に迷う

手探りで洞窟探検を始めた吉田さん、日本最長の洞窟探検に参加し、最長記録更新に関わったことで、ますます「洞窟熱」は高まる一方。そんなとき、三重の山中に大洞窟があるという噂を耳にし、持ち前の粘り強さで探検を許された。夢にまで見た未踏の洞窟に興奮しまくる吉田さんだったが……。

未踏の洞窟に入れたことに
興奮しすぎ、帰り道を見失う

 洞窟へ入ってから1時間ほど、迷った!と気づいてから15分ぐらいさまよっただろうか。
「吉田さーん、こっちでーす」
 相棒の元ちゃんの声がかすかに聞こえてきた。
「よかった~。これで助かった」

 オレはホッとして、声が聞こえる方向へと進んでいった。だが、すこし行くと壁に遮られてしまって、先に進むことができない。
「元ちゃん、どこだぁ~!!」
「こっちです、こっちです」

 壁の向こう側からかすかに相棒の声が聞こえてくる。たぶんわずかな隙間から声だけが響いてきているのだろう。
 そこから30分ぐらい格闘して、やっと15センチぐらいの隙間から声が聞こえてくるのを発見して、その隙間に体をねじ込んでみたが、頭は通ったものの胸がつかえてしまい通れない。
「ここはダメだ!」

 元ちゃんの声は聞こえるのだが、先へは進めない。もしこのまま帰り道が見つからなかったら……そう考えると、腹の底から恐怖が湧き上がってきた。
 しかし、焦ってパニックになったら状況を悪化させるだけだとわかっているので、恐怖をグッと抑え込み、何とか気持ちを落ち着かせながら、暗闇の中、次の穴を探し回った。

 結局、3つ目の隙間に何とか体をねじ込むことができて、それから1時間後ぐらいに元ちゃんと合流することができた。  
 隙間の先に元ちゃんの顔が見えたとき、オレの心にはそれまで感じたことのない安堵感が湧き上がってきた。

 合流後、左右の分岐の先の状況を互いに確認し合った。
「いや~大変だったよ。オレは上のほうに行ったんだけど、穴は狭いわ、途中で蝙蝠のフンが腰ぐらいまで積もっていて、泳ぐように進まなければならないわ。しかも道に迷っちゃって、お前に会うまでに1時間も2時間もかかってしまったよ」

 オレの話を聞いた元ちゃんは「そんなに悪かったんですか!?」と驚いていた。
「僕のほうは、はじめは狭かったんですけど、そこを抜けるとめちゃくちゃ広い空間に出たんです。ここまでも迷うことなく、普通に戻って来られましたよ」

 元ちゃんの言葉に、今度はオレが驚く番だった。要するに、元ちゃんは当たりくじ、オレはハズレくじを引いてしまったというわけだ。  
 その後、元ちゃんに案内してもらって、オレは左の通路の奥に広がっているという広い空間を確認しに行った。  
 左の穴は、オレが行った右の穴と異なり、下へ下へと続いていた。最初の狭い通路を抜けると10メートルぐらいの広い通路となり、さらに下っていくとキャップライトの光が洞壁に届かないくらいのどデカい空間へと出た。体育館5個分くらいはありそうだった。  
 天井の高さは20メートルぐらいあっただろうか。奥のほうをキャップライトで照らすと、その先にも空間は続いているようだった。
「この洞窟は、オレたち2人だけでどうにかなるものじゃないな」

 洞窟に入ってから、すでに3~4時間が経っていた。
 入口で待っているほかのメンバーも心配しているだろうと、その日は引き返すことに決めた。ちなみに、オレが装備を借りたメンバーはその後一度もこの洞窟に入ることはなかった。

 この日、オレはずっと探し求めていたもの、完全な人跡未踏の洞窟に出会うことができた。

 それまでは洞窟の入口を求めて、あっちの山、こっちの山を彷徨い歩くだけだったが、この日を境にオレの探求する対象が、「入口」ではなく、「洞窟」そのものになったのだ。
 洞窟探検家として本気になって挑むべき対象が見つかり、「やっとスタートラインに立てた」「やっと始まった」という気持ちだった。  
 それからは休みがとれるときは、必ずこの洞窟、「霧穴」に行くようになった。以後、現在に至るまでの16年間、霧穴に通い続けることになる。

洞窟の中に泊まってみたら、低体温症で死ぬかと思った

 洞窟探検チームとして活動はしていたものの、素人に毛の生えた程度だったオレたちは、この未踏の洞窟「霧穴」の探検を通じて、さまざまなノウハウを自分たちのものにすることができた。  
 今でこそ当たり前にやっているが、洞窟内で泊まるようになったのも霧穴が最初だった。  
 それまでは朝から晩まで1日かけて踏査をしたら、いったん洞窟から出て山を下りて野宿し、翌日あらためて洞窟に入るというスタイルで探検をしていた。  
 そもそも「洞窟内に泊まる」という発想がなかったのだ。

 しかし、霧穴を探検するようになり、奥のほうへ行けば行くほど、毎日洞窟を出て、山を下り、翌日また山を登って戻ってくるのが時間的に無理になってきた。
「洞窟の中に泊まるしかない……」  
 そうは思うものの、洞窟内に泊まるにはどんな装備を用意して、どんなことに注意しなければならないのか、皆目見当がつかなかった。  
 そこで最初は、寝袋もマットもなしで、「とりあえず洞窟内で寝てみよう」ということからはじまった。

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洞窟ばか

吉田 勝次
扶桑社
2017-01-08

この連載について

初回を読む
洞窟ばか

吉田勝次

『クレイジージャーニー』『情熱大陸』などテレビで話題沸騰の洞窟探検家・吉田勝次。国内外で挑んできた洞窟は1000を超える。「なぜ洞窟か?」と聞かれれば、「そこに未知の世界があるから」。 17㎝の隙間があれば身体を押し込み、泥にまみれ、...もっと読む

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コメント

bus_gasbusgas 『そこで最初は、寝袋もマットもなしで、「とりあえず洞窟内で寝てみよう」ということからはじまった。その結果わかったのは、「着の身着のままはヤバい(=死ぬかもしれない)」ということだ。』 3年弱前 replyretweetfavorite