ね、お願い。この恋に協力して?

【第21回】
もうすぐ引退する部活の先輩に、恋をしている。
だから協力してほしい、と友達から頼まれた高2の彩子。
でも、そんなのイヤだし無理だ。だって……。
新章スタート! 小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!

ドキドキ・サイコメトリー

「ねえ、おーねーがーい!」

「だから、ヤダってば!」

 御手洗彩子(みたらいあやこ)は、サッカー部の部室に向かいながら、手をひらひらとさせて逃亡を図った。クラスメイトで、同じサッカー部マネージャーの菜々美が、なんでよお、とふてくされた声を上げ、文字通り、くねくね、と腰やら腕やらをくねらせながら、彩子の前に回り込んでくる。

「一生の! 一生のお願いなんだってば!」

「まだ十七だよ、私たち。取っておきなよ。いざという時のために」

「今がその、いざという時なんだってば!」

 菜々美は、彩子の肩を両手で摑むと、お願い、と、地の底から這い上がってくるような低音を出した。彩子は、迫力にひるみながらも、無理、と同じ答えを返した。

「だってさ、考えてよ、アヤ。もうすぐ選手権の二次予選始まっちゃうじゃん? そこで負けちゃったら、三年生は引退じゃん」

「勝つよ、きっと。みんなで行くんだよ、決勝戦」

 負けたら、の話、と、菜々美が口を尖らせる。

「そしたら、先輩、引退しちゃうじゃん。部活で会えなくなったら、話す機会とかなくなっちゃうじゃん」

 菜々美の言う「先輩」とは、部の三年生全員を指しているのではなく、キャプテンであり、エースである来栖聖(くるすきよし)先輩のことを指している。もはや、その他の三年生は有象無象(うぞうむぞう)であり、存在は空気と言わんばかりだ。彩子は、ため息をつき、来栖先輩だけじゃないんだから、とたしなめた。

 高校のサッカー部は、三年生の引退時期が独特だ。野球部は夏の甲子園が最後の大会となるのが普通だが、サッカー部が最も輝くのは、全国高等学校サッカー選手権大会、通称「選手権」なのだ。夏頃から一次予選が始まり、二次予選は秋。全国大会まで残ると、年末年始まで、三年生は部に残ることになる。

 もちろん、受験や就職活動に専念するために、夏のインターハイを最後に引退する三年生も多い。弱小、と言われてきた例年なら、今頃は二年生主体の新チームが発足している頃である。だが、今年のサッカー部は高校サッカー界でも指折りの逸材である来栖聖を擁し、創部以来最強と言われていて、三年生のほとんどが夏休み明けの今も部に残っている。

 普通なら、来栖先輩のようなプレイヤーは、プロ傘下のユースチームに所属するか、強豪校に進学するのが常だが、来栖先輩の才能が開花したのは、高校入学後、しばらく経ってからのことであった。一人の突出したスタープレイヤーが現れたことで、チーム全体のレベルもぐっと上がった。二次予選の突破も決して夢物語ではない。

 とはいえ、一度負けたら、そこまでだ。

 一学年下の彩子や菜々美らは、部活という繫がりがなくなってしまうと、三年生と交流する機会は限られる。菜々美が、嫌がる彩子を道連れにサッカー部のマネージャーになったのは、来栖先輩と話したい、という、ただそれだけの理由だった。先輩の引退は、菜々美にとっては死刑宣告に等しい、らしい。

 先輩と話ができなくなる前に、何とか自分の想いだけでも伝えたい。あわよくば、いい感じになりたい。そのために協力しろ、というのが菜々美の「一生のお願い」の全容だ。

「ね、お願い。協力してよ、アヤ」

「協力してって言われても、大したことできないし」

「先輩に、彼女とか、好きな人がいるかとか、それだけわかればいい」

 わかるでしょ? と、菜々美は彩子の肩を摑んで、激しく揺らした。

「わかんないよ、そんなの」

「ウソ、わかんないの?」

「わかるかもしれないけど、わかるかどうかはわからないし」

「わけわからないって、もう」

 彩子は、菜々美の腕を振り切って、小走りで部室に向かおうとした。練習前、マネージャーの仕事はたくさんあるのだ。

「もう! ケチ! 人でなし! ぱっつんボブ!」

「髪型は関係ない!」 「ねえー、お願いだってえ! 超能力者!」

 菜々美が、大きな声を出す。彩子は、その声が聞こえるなり踵(きびす)を返し、つかつかと大股で歩み寄ると、菜々美の尻を思い切り蹴っ飛ばした。

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