第214回 テンテンにはさまれて(後編)

《数の値》と《数の表記法》って何が違うの? ユーリが思考をめぐらせる! 「無限を探そう」シーズン第2章後編。
【長期お休みの予告】

結城浩です。いつもご愛読ありがとうございます。

「無限を探そう」シーズンに入って4回目となりました。 シーズン途中ではありますが、 このWeb連載の更新を2018年1月末までお休みさせてください。

再開は2018年2月になる予定です。

その期間、 結城は2018年刊行予定の書籍『数学ガール6』の執筆を加速させたいと思っております。

ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
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ユーリは、 $$ \frac17 = 0.142857142857\cdots = 0.\dot14285\dot7 $$ という数を使って楽しくおしゃべりをしている(第213回参照)。

ユーリ「そーいえば、エジプトもこれだったね」

「これって?」

ユーリ「$\frac17$みたいな分数を考えるんじゃなかったっけ」

「単位分数のことだね。分子が$1$になっている分数の和の形で数を表した」

ユーリ「それそれ。《いにしえの数学》イベントで見た(「第182回 古代エジプトの数学」参照)」

「古代エジプトだと、分子が$1$になっている分数と、それから$\frac23$が基本的な数として使われたんだね。 たとえば、$\frac{3}{5}$という数を表すときには、 $$ \frac{1}{3} + \frac{1}{5} + \frac{1}{15} $$ に相当する書き方をする」

ユーリ「クラゲみたいなの」

「クラゲというか、雲というか……」

古代エジプトの文字(ヒエログリフ)で書いた$\frac{1}{3} + \frac{1}{5} + \frac{1}{15}$

ユーリ「めんどいよね。だって$\frac{3}{5}$って書けばいいだけなのに、 わざわざ並べて足し算にするなんて」

「古代エジプトの人はそれで慣れていたのかもしれないけどね。数の表記法には一長一短あるから」

ユーリ「ひょうきほう? いっちょういったん?」

「《数の表記法》、つまり《数を書き表すやり方》によって、便利な場合と不便な場合が変わるってこと」

ユーリ「ちょっと何言ってるかわかんない」

「たとえば、さっきの話に出てきた$\frac17$は分数で書いたけど、小数で書くこともできる。$\frac17$と書く代わりに、$0.\dot14285\dot7$と書く」

$$ \frac17 = 0.\dot14285\dot7 $$

ユーリ「そだね」

「いまの二つの書き表し方、つまり表記法は違う。でも、その二つはイコールで結べる。 $\frac17$と$0.\dot14285\dot7$とは、異なる表記法で書かれているけれど、 値は等しいんだよということを表している」

ユーリ「まわりくどい言い方」

「でも、大事なことなんだよ。ある数を書き表したいと思ったときに、分数の形で表すなら$\frac17$と書くし、 小数の形で表すなら$0.\dot14285\dot7$と書く。 古代エジプト人がヒエログリフで表すなら$7$を表すヒエログリフの上に雲みたいなものを描いたかもしれない。 でも、表記法が違うだけで値は等しい」

ユーリ「それで? いっちょういったん」

「うん。$\frac17$の形で書くと、$1$を$7$で割った値だなということがわかりやすい。でも、ほら、さっき調べたような$142857$の繰り返しが出てくるというパターンを調べるは$\frac17$という表記法ではわかりにくい」

ユーリ「ふむふむ。パターンね」

「それから、大きさを比べるときも考えてみよう。$\frac{7}{13}$と$\frac{11}{21}$ではどっちが大きい?」

クイズ1(どちらが大きいか?)

$$ \frac{7}{13} \qquad \text{と} \qquad \frac{11}{21} $$

ユーリ「えっと?」

「こういう分数同士だと、パッと見て大きさの比較は難しい。でも、小数で表されていれば、 $0.\dot53846\dot1$と$0.\dot52380\dot9$のどちらが大きいかはすぐわかる」

クイズ2(どちらが大きいか?)

$$ 0.\dot53846\dot1 \qquad \text{と} \qquad 0.\dot52380\dot9 $$

ユーリ「$0.\dot53846\dot1$の方が大きい! だって、左は$0.53\cdots$だけど、右は$0.52\cdots$だから」

「そうなんだ。小数で表すと、二つの数の大小関係はいつもわかりやすい。それに比べて分数だと大きさの比較が難しいことがある」

ユーリ「なるほどー。あ、でも、簡単なときもあるよ」

「そうだね。分数の大小比較がいつも難しいとは限らない。分母が等しかったり、分子が等しかったりすれば比較は簡単」

ユーリ「分母は大きくて分子が小さいとかね」

「そういうこと」

ユーリ「単位分数同士なら、分子がいつも$1$だから比較は楽だね」

「なるほど。確かにそれはいえるな。ともかく、値と表記法の区別は大事だし、 表記法ごとに便利な点は違うというのは納得できた?」

ユーリ「ナットク、ナットク」

「そういえば、小学校のときに《分数を小数に直す計算》や《小数を分数に直す計算》をたくさんやったよね」

ユーリ「やったやった。超めんどいの」

「あれは、《数のは変えずに、表記法を変える》という練習だったんだね。分数には分数の、小数には小数の便利なところがある。 だから、自分の都合がいい表記法に書き換えるのは大事なこと。 でも、書き換える途中で値を変えちゃだめだよね。 さっきのクイズ1,2も同じ問題なんだけど、表記法が違うだけ。 $$ \begin{align*} \frac{7}{13} &= 0.\dot53846\dot1 \\ \frac{11}{21} &= 0.\dot52380\dot9 \\ \end{align*} $$ だから、 $$ \frac{7}{13} = 0.\dot53846\dot1 > 0.\dot52380\dot9 = \frac{11}{21} $$ ということ」

ユーリ「ふむふむ」

クイズ1とクイズ2の答え

$$ \frac{7}{13} = 0.\dot53846\dot1 > 0.\dot52380\dot9 = \frac{11}{21} $$

逆は?

ユーリ「あれ? お兄ちゃん。逆は?」

「《ならば》は出てきてないよ」

ユーリ「その逆じゃなくて、反対は?」

「ねえ、ユーリ。テレパシーで会話するのはやめようよ。何の話か順序立てて言ってくれないとわからないよ」

ユーリ「察し悪いのう。あのね、$\frac{1}{7}$を小数で表すと、$$ \frac17 = 0.\dot14285\dot7 $$ になるんでしょ?」

「そうだね。もちろん、$0.142857142857\cdots$と表してもいいけど。それで?」

ユーリ「小数に直すとどうなるかは、$1$を$7$で割ればわかるじゃん?」

$\frac17$を小数に直す

「そうだね」

ユーリ「だから、その逆は? $0.\dot14285\dot7$を見たとき、$\frac17$ってすぐわかる? 小学校で習ったっけ?」

「なるほど! 《$0.\dot14285\dot7$という小数を分数に直す》にはどうするかという問題だね」

ユーリ「そーゆーことじゃ。あっ、もちろん$\frac17$になるのはもう知ってるからわかるよ。 でもたとえば、適当に、 $$ 0.123123123\cdots = 0.\dot12\dot3 $$ みたいな小数を作ったら、これって分数にできるの? $0.123$じゃないくて、$0.\dot12\dot3$だよ? お兄ちゃん、暗記してる?」

「いや、暗記はしてないし、小学校で習った覚えもないけど、これは考えれば解ける問題だよ」

問題(無限小数を分数に直す)

次の無限小数を分数で表せ。 $$ 0.123123123\cdots = 0.\dot12\dot3 $$

ユーリ「《あなたも、考えてみましょう!》のカンバン、出ちゃった」

「メタ発言自重……考え方は難しくないと思うけど」

ユーリ「うーん。$0.123$だったら楽なんだけど」

「それだよ、ユーリ。ポリヤの問いかけ《似た問題を知らないか》だね。ユーリは$0.\dot12\dot3$を分数に直す方法は知らない。でも、$0.123$を分数に直す方法という似た問題なら解ける」

ユーリ「だって、$$ 0.123 = \frac{123}{1000} $$ でしょ? 約分はできない」

「そうだね。いまは約分は気にしなくていいよ。ともかく、$0.123$はすぐに分数にできた。でも$0.\dot12\dot3$は分数にできない。その二つは何が違うんだろう」

ユーリ「$0.\dot12\dot3$は$123$が無限に続いているから。$\frac{123}{1000}$だけじゃ足りないでしょ?」

「……」

ユーリ「むむ? さては、その無言は《ヒントの無言》だにゃ? お兄ちゃんの目が語ってる! 『そこがポイントだよ。じっくり考えてごらん、かわいいユーリ』って語ってる!」

「《求めたいものは何か》」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

satoriHSR もう少し正確に話すと「0<r<1を満たす実数に対して、ある素数pが存在してrに収束するpのべき乗の分数列が存在するか」という感じになるのでしょうか。p進法との関わりはこちらにて↓↓ https://t.co/ox8aoUBqsh 8ヶ月前 replyretweetfavorite

shigezolo 2つの分数を分数のまま大小比較しようとして、双方を1/2+1/αに直して計算した自分はエジプトをリスペクトしてるかもしれません。 9ヶ月前 replyretweetfavorite

takuya1995759 数の表記法かー。最近はあまり数字使ってないなー(笑) 9ヶ月前 replyretweetfavorite

kazuki_0014 |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート 最新刊楽しみにしてます https://t.co/CFr7IkKGj9 9ヶ月前 replyretweetfavorite