親がアルコール依存、クスリをやっている、虐待、服役中……。
そんな環境が「普通」になってしまった子どもたち。
なぜ子どもが非行に走るのか?
長年の経験で行き着いた中本さんの答えは「空腹だから」となる。
「お腹が空いたときっていうたら、悪さをすることしか頭にないもん。子どもらっていうのは。男の子だったらカツアゲ、万引き、ひったくり。女の子じゃったら売春。お腹が空いたときに考えるいうたらそれしかない! これは 10人が10人、みんな!」
これはNHKスペシャルの番組の冒頭でも使った中本さんの印象的な言葉だ。
でもここだけの話、内心は「そんな単純でもないでしょうに」と思っていた。「以前に比べて子どもに関わろうとする大人が少なくなっている」とか、「昔に比べ貧困の質が変わってきている」とか、「社会の中で何かを排除する傾向が強まってきている」とか……。
もっと問題の「根幹」があって、それを解明したいという思いがあった。しかし、今思えば、私は流行病にかかっていたようだ。
テレビの制作者だけがかかる病のようで「子どもの貧困」や「不寛容社会」、「地域社会の崩壊」といったトレンド的キーワードを番組の中にちりばめておくと安心するというものだ。
私は何度か、中本さんに子どもたちを非行に走らせる「時代の悪者」を引き出そうとインタビューをしたことがあったが、当の中本さんは「何じゃろね?」と首をかしげるばかりだった。
私だけではない。
最近、中本さんのもとには「子どもの貧困について特集したい」とほかのマスコミからも取材依頼が来るのだが、中本さんは「ウチには貧困の子どもはいないよ」と断っている。
「子どもの親はたいてい生活保護をもらっていて、ウチの年金より多い」というのが中本さんの理由だ。問題の本質は、お金がギャンブルやお酒、クスリに回って、子どもの食べ物に回っていないこと、なのだという。
親が子どもにお金を渡しているケースも少なくない。しかし、お金を数日間にわたって計画的にやりくりし、食べていくことは容易ではない。結局はどこかの時点で「食べられない時」がやってくる。
自然と「親は何をしているんだ」という疑問が浮かんでくる。
しかし、しかしである。
この「とにかく親が悪い」という見方は非常に危険だ。そこで問題をシャットアウトしてしまい、結局困っている子どもは置いてけぼりのまま、問題は何も解決しない。
もしかしたら、社会はそうやって「子どもに関わらなくていい」自分たちへの言い訳にしているのかもしれない。とにかく子どもたちは「食べられずに」弱っている。
私は、中本さんの家に通うようになって、にらんだり、威嚇している非行少年の姿を見ると、「怖いんだな」「不安なんだな」と感じるようになってきた。
動物は弱いものに対して威嚇などしない。強いものに立ち向かったとき、負けてしまうかもしれないと思ったときほど、大きく虚勢を張るものだ。これらの“にらみ”が強烈なほど、それは子どもたちが、どれほど社会を恐れているかを表しているようにも思える。大声で街で暴れるのも、彼らなりの“のろし”なのかもしれない。
中本さんもインタビューの中でこう語っている。
「子どもの中には『野良犬、野良猫のような扱いを受けとったのが、それがなくなった』と言う子どもがおるわけね。結局、私たちと触れ合うようになってね」
「親が悪い」ではなにも解決しない
もしも身体のどこかに異変があるとき、子どもに限らず大人でも「どこが痛いのか」と痛みの表現を求められたら困るのではないだろうか?
「お腹の奥のほうの下のほうの……」と場所を表現するのも難しければ、「ヒリヒリ」「ジクジク」といった痛みの内容を表現するのも難しい。
とりわけ……、子どもの本音を引き出すのは実に難しい。子どもたちは大人の求める答えを知っていて、気を遣い、そこを意識して答えてくれているように思う。
田植え体験を終えた子どもにインタビューをすれば、低学年だと「ドロドロしていて楽しかった」のように答え、高学年だと「いつも食べているご飯がこうやって作られていると知って、ご飯がもっと好きになりました」といった内容を答えてくれることが多い。
我々テレビの側も、それを「子どもの声」として伝える。でも本当に楽しい子どもだけだったのか、学びがあった子どもだけだったのか、現場にいる人間として反省すべきところは多い。
もしカメラの回っていないところで、無作為に声をかけたとしたら「別に……」と言った子どもは少なくないだろう。
私の性根が曲がっているだけかもしれないが、私は「子どもの本音」に辿たどり着くことは、非常に難しいと感じている。
私は、中本さんの家にやってくる多くの子どもに、質問し続けた。自分の痛みを表現するのも、本音を引き出すのも難しい子どもに対して。
中でも「親についてどう思うか?」は、必ずといっていいほどする質問だ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。