コト消費」にはざっくり七つある

「コト消費」という言葉はさまざまな文脈で使われています。けれどもそれは果たしてそれはきちんと売り上げに結びついているのか。「コト消費」という言葉に踊らされ、長期的な売り上げに結びつかないような施策をしている店も少なくないといいます。コピーライターの川上徹也氏が、「コト消費」が用いられている意味をざっくり七つに分類したうえで、今の時代に求められる売り方のヒントを探ります。

「コト消費」にはざっくり七つある

「コト消費」って何? という記事の中で、「体験的価値にお金を払う」という消費の風潮をひとまとめにして集約して語られているのが、「コト消費」という言葉であることを紹介しました。
 ここで様々な文脈で使われる「コト消費」について、川上流にざっくり七つに分類してみました。
 それぞれがきちんと分かれているものばかりではありません。
 いくつかのカテゴリーに重複しているものもあれば、どちらに分類してもいいようなものもあります。

①純粋体験型コト消費

「体験型消費自体」が商品になっている「コト消費」のことをいいます。
 観光産業ではその多くの商品がこのカテゴリーに属するものです。
 ホテルや旅館に泊まる。その土地ならではの食事をする。温泉やスキーを体験する。神社・仏閣などの観光地に行く。山・川・海などでアクティビティを体験する。ライブ・フェス・花火大会などのイベントに参加するなどといった単純なものから、日本ならではの文化体験なども含まれます。
 文化体験は、和服の着付け・書道・陶芸など伝統文化の体験と、コスプレなどに代表されるポップカルチャーの体験が主なものです。
 いわゆる外国人観光客の消費における記事では、ほとんどがこの意味で「コト消費」という言葉が使われています。
 外国人観光客に限らず、このタイプの「コト消費」は今後も成長が見込めるでしょう。
 今、全国各地で人気の観光列車などはその典型です。
 最近増えているのは「聖地巡礼」です。本来の意味は、宗教の発祥地などに赴くことを言いますが、近年は、漫画・アニメ・映画・ドラマなどの作品における「物語の舞台となった土地」を実際に訪れることを指して使われる言葉になっています。平成27年度訪日外国人消費動向調査によると、全体の約5%弱の外国人観光客が聖地巡礼を目的に訪れるという結果が出ています。5%弱といっても90万人以上ですから、かなりの人数です。たとえば江ノ電鎌倉高校駅前1号踏み切りは、特に店などは何もない場所ですが、アニメ化された『スラムダンク』のオープニングシーンに登場する場所ということで、主に台湾人観光客の聖地巡礼でいつもにぎわっています。
 観光以外にも、ヘアカット・カラーリング・ネイル・エクステ・エステ・マッサージ・ストレッチなどの業種も含まれます。
 純粋体験型コト消費の特徴は、「コト」と「モノ」を結びつけなくても、商売としては成立するということです(聖地巡礼は除く)。
「体験してもらうこと=商品」だからです。
 別の言い方をすると「コト消費≒モノ消費」だと言えます。
 そうは言っても、純粋体験型コト消費をさらに「モノ」につなげることができればより大きな消費を生み出すことも事実です。
 ライブイベントなどでは、グッズなどのモノを買ってもらって初めて、収益が見込めるというタイプのものもあります。
 特に聖地巡礼に関しては、現地での「消費」につながっていないケースも少なからずあるので、もったいないという考え方もあるでしょう。

②イベント型コト消費

「イベント=商品」である場合は、①の純粋体験型コト消費に含まれます。
 ここにカテゴライズされるのは、デパートやショッピングモールの商業施設や商店街などで、何かイベントを開催することで集客するという手法のコト消費です。
 多くの場合、イベント自体は無料なので、それ自体では商売として成立しません。
 イベントによって集まってくる人の、モノ消費を期待したコト消費だと言えるでしょう。
 一般的には、一過性の効果に終わってしまうケースが多いようです。

③アトラクション施設型コト消費

 この項目に入るのは、主にショッピングモールなどの商業施設などに何らかのアトラクション施設を作ることで、集客するという手法のコト消費です(単独のアトラクション施設に行くような消費は①の純粋体験型コト消費に含まれます)。
 代表的なものとしては、映画館(シネマコンプレックス)でしょう。
 他にも、ミニ遊園地、アスレチック、子供向け教育エンタメ施設、美術館、劇場、水族館、動物園など様々なアトラクション施設を、モールなどの商業施設内に導入することが増えてきました。
 言うまでもなく、これらの施設は集客には効果があります。
 その施設が他にない魅力的なものであればなおさらです。食事をはじめ、ある程度のモノ消費につながることもあるでしょう。
 しかし、導入には莫大な投資が必要です。
オープン当初は人気だったが、今は無用の長物になっているものも少なくありません。一時期、各地の商業施設で盛んに導入された観覧車などはその典型です。
 それはお客さんが本当に欲しているものなのか、またそれだけの費用をかける意味が本当にあるのかなど、きちんと検証する必要があるでしょう。

④時間滞在型コト消費

 主に商業施設において、長時間滞在してもらうことで、「モノを買ってもらう」ことを狙ったコト消費です。
 前述した「イベント」や「アトラクション施設」なども、広い意味では滞在時間を増やすことにつながるので、ここにも含まれるでしょう。
 最近多いのは、居心地のいい場所を提供し、自然と長時間滞在してもらうことでの消費を狙うスタイルです。
「トキ消費」という言葉も最近ちらほら見かけますが、この時間滞在型コト消費を言い換えたものだと考えてもいいでしょう。
 前述した「代官山 蔦屋書店」の流れをくむ「蔦屋書店」「T-SITE」(蔦屋書店を中核とした複合商業施設の名称)などは、その典型です。
 私自身も日頃からよく利用させてもらっていますし、最近まで新しい蔦屋書店ができたと聞くと、日本全国どこであっても見学に出かけていました。
 いずれもとても居心地のいい空間ですし、このような施設ができることは、消費者にとっても喜ばしいことなのはたしかです。
 ただ、そうした商業施設が、本当に他の消費につなげられているかは、改めて検証する必要があるでしょう。
 いつまでも居心地のよさだけが支持されることは滅多にありません。商業施設である以上、きちんとモノを消費してもらってこそ未来があります。
 長い時間滞在したからといって「モノ」を消費するとは限りません。このタイプの消費では、居心地の良さを「モノ消費」につなげる仕掛けが重要になってくるでしょう。

⑤コミュニティ型コト消費

 その商業施設を中心としたコミュニティを形成することで、消費につなげようというスタイルのコト消費です。コミュニティの場となることで、多くの時間滞在してもらうという意味では、④の時間滞在型コト消費の要素もあります。
 ただ、④のようにお客さんに居心地のよいスペースを提供するだけでなく、積極的に参加してもらう必要があります。
 形成されるコミュニティは、「商品を中心としたコミュニティ」「商品とは関係ないコミュニティ」の大きく二つに分けられます。
「商品を中心としたコミュニティ」とは、たとえば自転車売り場で〝自転車好きな人たちが集まるコミュニティの場をつくる〟というようなものです。
「商品とは関係ないコミュニティ」とは、〝直接は商品とは関係ない「社会活動」や「趣味」などのコミュニティをつくる〟というようなものです。
 どちらにしても軌道に乗るまでは大変です。スタッフの手間もかかります。
 大型商業施設よりも、中小規模のお店などの方がうまくいきやすいタイプの消費だともいえるでしょう。

⑥ライフスタイル型コト消費

 商業施設がライフスタイル全般を提供することで、ファンになってもらい購買につなげるというタイプのコト消費です。
「アップルストア」などはその典型ですね。「イケア」「無印良品」などもこの要素が強いと言えます。
 このように単独の店舗ではライフスタイルを訴えることはできても、色々な店舗が集まる大型商業施設の場合、なかなかうまくいかないケースが多いのが実情です。
(このタイプのコト消費を目指すのであれば、〝物語〟が必要不可欠になります。それが何であり、どのように活用していけばいいかは『「コト消費」の嘘』(角川新書)第四章で詳しく解説しています)

⑦買い物ワクワク型コト消費

 モノを買うこと自体がワクワクするような仕掛けや店舗設計をすることで、買いたい気持ちにさせるというコト消費です。
 90年代における「東急ハンズ」や「ロフト」、00年代における「ドン・キホーテ」や「ヴィレッジヴァンガード」などの店舗を想像していただければと思います。
 10年代に入ってからは、たとえば「カルディコーヒーファーム」「北野エース」などの特化型スーパーと呼ばれる店舗はこの要素が強いです。
 ワクワクするという「店舗体験(コト)」を、直接「モノ消費」に向かわせていたという点では後述の「コトモノ消費」につながるヒントがあります。

「コトを売るバカ」になっていませんか?
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コト消費」の嘘

川上徹也

連日メディアをにぎわす「コト消費」という言葉ですが、言葉に踊らされて「コト」だけを売り、売上に結びついていない事例も少なくありません。また「コト=体験」といった表層的な理解で語られることも多いのが実情です。「コト」と「モノ」をきちんと...もっと読む

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