コト消費」って何?

ここ数年、急にメディアで目にするようになった「コト消費」。「モノが売れない時代」といわれて久しいなかで、急激に脚光を浴びている言葉です。ただし定義はあいまいで、使い方もバラバラ。猫も杓子も「コト消費」という状況で、様々な意味で使われているのが実情です。そもそも「コト消費」がどういう意味で用いられているのか、「コト消費」が流行になった背景に何があるのかを、コピーライターの川上徹也氏が紹介します。

見出しに躍る「コト消費」という言葉

 ここ数年、「コト消費」という言葉がメディアをにぎわせています。
 新聞・雑誌のデータベースである「日経テレコン」で調べると、新聞(専門紙を含む)で「コト消費」という言葉を見出しや本文で使った記事の本数は、初出から2015年末までには374本でした。
 それが2016年の1年間で使われたのが453本、2017年に至っては9月末までの段階で1019本となっています。2016年からブームになり、2017年に入って圧倒的にこの言葉が使われ始めたことがわかります。

 その一部をピックアップしてみます。

・来年の福袋は「コト消費」高島屋・三越伊勢丹など (2016年11月7日 日本経済新聞電子版)・中国地方百貨店の福袋「コト消費」満載 カープ選手と食事 (2016年12月29日 中国新聞) ・訪日客のコト消費つかめ 旅行大手、そば打ち・陶芸などPR (2017年1月25日 日本経済新聞電子版) ・自分磨きへ「コト消費」 プレミアムフライデー企画続々 静岡 (2017年2月23日 静岡新聞) ・ものづくりを「見せる化」 石川、富山の製造業「コト消費」を狙う 工場改装、見学エリアを新設 (2017年2月24日 北國新聞) ・GINZA SIX開業 241店「高級感あふれる」ブランド・コト消費 熱視線 (2017年4月21日 日本経済新聞) ・婚活実らす「コト消費」 農業体験や島探検 共同作業で自然な会話 (2017年4月22日 日本経済新聞) ・関西「コト消費」競演、大阪「夜」も誘客、大阪城周辺に新劇場、娯楽充実、長い滞在促す。(2017年4月14日 日本経済新聞関西版) ・旅行大手、コト消費深掘り 訪日客の長期滞在促す、日本旅行が着物レンタル窓口、阪急交通、もてなし研修提供 (2017年4月18日 日本経済新聞)

 これらの見出しだけを見ても、様々な文脈で「コト消費」という言葉が使われているのがわかります。また見出しではなく中身だけに使われている記事もたくさんあります。中には居酒屋のメニューの言葉を変えただけで「コト消費」などと訴える記事もありました。
 このように「コト消費」という言葉が一人歩きしている印象です。

80年代からあったコト消費

 「コト消費」という言葉が使われるようになったのは、2000年前後からだと言われていました。
 しかし、今回、改めてそのルーツを調べてみると、さらに以前から使われている言葉だとわかりました。

 調べた範囲で一番古くに出てきた記事は、1989年9月23日の日経流通新聞(現・日経MJ)にありました。若者の消費動向について書いた記事で、見出しは「現代版貴族、今をリッチにエンジョイ──瞬間貴族の横顔(消費最前線)」です。以下、一部を引用します。

 つかの間に王侯貴族の気分を味わう若者たち。その消費行動は高級志向という消費トレンドの中でも異彩を放つ存在である。彼らは決して資産を持っているわけではない。いや持つことをあきらめたために、一瞬の快適さに身を沈めることが可能になったのだろう。(中略)そこで、稼いだ金をどの方面に使うか、という問題になる。こうした金の行き先の一つが新しい消費。かつての一点豪華主義のモノ消費から、時間や空間などソフトに積極的に投資するコト消費へと流れている。ひと時でも、自分なりの生活の楽しさを追求、リッチ感を味わおうとしているのだ。高級外車をリースで楽しむ若者が増えているのはその一例だ。(中略)。だから車を購入するよりも、大事な時だけ、高級外車をリースし、日ごろ味わえないリッチ感覚を得るのが「瞬間貴族」のライフスタイルにマッチしているのだ。

 バブル絶頂期で、若者のことを「現代版貴族」と呼んでいることには隔世の感はありますが、それを除くと、語られていることは意外なほど現代の消費マインドと共通しているのに驚きます。
 その後の記事を追うと、90年代から00年代前半にかけて消費が停滞しモノが売れなくなるたびに「コト消費」という言葉が紹介されています。そして00年代後半から「コト消費」という言葉が使われる記事の本数が増え、近年、一大トレンドとして使われるようになっています。

なぜ「コト消費」は流行語になったのか?

「コト消費」という言葉が流行語になってきた背景には、まず従来のような〝モノを所有することに意義を見いだす消費スタイル〟が、以下のような要因により下火になってきたことがあります。

・オーバーストア(店が過剰に出店すること)により、世の中に「モノ」があふれるようになった
・生活に必要なモノが一通り手に入り、特に欲しい「モノ」がなくなってきた
・低成長が続き老後の不安などからできるだけお金を使わない習慣が一般化した
・「断捨離」などの言葉に代表されるように、モノを所有しないほうが進んだライフスタイルであるという風潮が高まってきた
・多くの人々がモノの所有よりも体験的価値に重きをおくようになってきた
・ECサイトの台頭で、単純にモノが欲しい時は、インターネットで買い物をする人が爆発的に増えた

 これらの傾向自体は、バブル崩壊後、平成不況のなかでずっと言われてきたことではあります。
 そうしたなかで「コト消費」という言葉が取り沙汰されるようになったのは、2010年代に入ってからです。
 とりわけ日本人の意識の面で転機になったのが、2011年3月の東日本大震災でした。その後に発表された様々な調査で、先ほど触れたような消費者の意識の変化を見てとることができます。
 その風潮は、「モノを売る側」、特にデパートやショピングモールなどの大型商業施設にとっては深刻な問題でした。それを打開する手段として「コト消費」という言葉にスポットが当たるようになったのです。

 そうしたなかで登場したのが、2011年12月にオープンした「代官山 蔦屋書店」を中核とする「代官山 T-SITE」でした。
 今までの書店の概念をくつがえし、ただ本などの「モノ」を売るのではなく、プレミアエイジ(60代以上の団塊の世代の新しい呼び名)を対象とする「ライフスタイル」をその売り物としたのです。
 さらにその圧倒的な居心地のよさも驚きでした。その場所にいるだけで「心地よい」「ワクワクする」「知的な興奮がある」という「代官山 蔦屋書店体験」というべき「時間」を売り物にしたともいえます。

 構想当初は、駅から離れているという立地からどれだけの人が集まるのかと懐疑的な見方も少なくありませんでしたが、実際にオープンすると、想定されたプレミアムエイジだけでなく、幅広い年代のお客さんが押し寄せ、代官山の人の流れが変わったと言われるほど人気を博しています。
 ある意味、「代官山 蔦屋書店」の成功が、流通業界における「コト消費」の流れを決定づけたと言えるかもしれません。
 ここ数年、コト消費を標榜して新しくできた大型商業施設の多くに、代官山の流れをくむ「蔦屋書店」が入っているのが、その証拠ともいえるでしょう。

 さらに、2016年には以下の要因が加わりました。
 一つは、「シェアリングエコノミー」の台頭です。インターネットを活用し、個人同士が空き時間や使われていないもののやり取りをする場面が増えました。たとえば車をもたずに、必要な場面でカーシェアリングを利用すればいいと考える人も増えています。今後ますますモノの所有に価値を見いださない生活者が増えていくことが予想されます。
 もう一つが、「爆買い」が落ち着いてきたことです。2015年前後の日本経済を支えたものに、外国人観光客(特に中国人観光客)の増加と、彼らによるモノの大量消費がありました。けれども、そのムーブメントが一段落して、最初に見たように日本での体験を重視するような観光にシフトしつつあります。
 「コト消費」という言葉がこのタイミングでよりメディアをにぎわすようになった理由には、過去数年の爆買いとの対比で記事で使いやすいということが大きな要因であるのは間違いありません。

 こうして、新しく芽生えてきた「体験的価値にお金を払う」という消費の風潮をひとまとめにして集約して語られているのが、「コト消費」という言葉なのです。


「コトを売るバカ」にならない物の売り方がわかる一冊!


「コト消費」の嘘

角川新書

この連載について

コト消費」の嘘

川上徹也

連日メディアをにぎわす「コト消費」という言葉ですが、言葉に踊らされて「コト」だけを売り、売上に結びついていない事例も少なくありません。また「コト=体験」といった表層的な理解で語られることも多いのが実情です。「コト」と「モノ」をきちんと...もっと読む

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Hashi_Takahiro 「 コト消費」って何? https://t.co/ZbroSFNeAE 15日前 replyretweetfavorite

fueino あとで読みます。 」 https://t.co/G9B37SaVbC https://t.co/dL1ZQL5iUu 15日前 replyretweetfavorite