gifted/ギフテッド』 家族であり続けるための困難な戦い

『(500)日のサマー』や『アメイジング・スパイダーマン』などで知られるマーク・ウェブ監督の最新作は、英才(ギフテッド)教育をめぐる家族の物語。この作品を通して、伊藤聡さんはアメリカ映画に多くみられるテーマなどを感じ取っています。

鮮烈な長編監督デビュー作『(500)日のサマー』(’09)で知られる、マーク・ウェブの新作が『gifted/ギフテッド』である。大型企画『アメイジング・スパイダーマン』(’12)『アメイジング・スパイダーマン2』(’14)の監督抜擢を経て、自分自身のプロジェクトへ戻ってきたマーク・ウェブがどのような作品を撮るか、注目していた映画ファンも多いだろう。

主役にキャプテン・アメリカ役で知られるクリス・エヴァンスを配した『gifted/ギフテッド』は、機能不全に陥った家族を描くドラマである。7歳の少女メアリーは母親を亡くしたが、叔父のフランクとふたり幸福に暮らしている。メアリーには、7歳にしてたぐいまれなる数学の才能があった。祖母イブリンは、自身も大学で数学を研究してきた経験から、孫娘に英才(ギフテッド)教育を施して才能を開花させることを望むが、叔父フランクはメアリーの亡き母親の意思と遺言を尊重し、メアリーを数学の道へは進ませずに普通の子どもとして育てたいと願う。やがて叔父フランクと祖母イブリンの間で教育方針のずれが生じ、ついには親権争いとして裁判沙汰へと発展してしまう。

『gifted/ギフテッド』は、『(500)日のサマー』で効果的に使用されたギミックの数々を封印している。観客は、そのシンプルで力強い作風に驚くことだろう。『(500)日のサマー』は、ミュージック・ビデオ製作からキャリアをスタートさせた映画作家ならではの自由なアイデアが詰め込まれた作品であった。画面が二分割される、実写とアニメーションが合成される、複雑に時間軸が前後する、主人公の妄想が映像で示される──。こうした遊びの精神は、監督の得意技とも呼べる手法である。それらを捨てて臨んだ新作は、映画作家マーク・ウェブの成長を感じさせるにじゅうぶんなクオリティを備えている。

アメリカ映画において、家庭は時に激しい戦いの場と化す。親も子も、うかうかしていると自分の立場を奪われてしまう。みずからの居場所を確保するには戦うほかないのだ。ゆえにアメリカ映画では、親権争いの裁判が繰り返し登場するテーマとなる。「ハリウッド映画においてもっとも息の長い人気サブジャンルは裁判映画(法廷映画)である」*1という加藤幹郎の指摘にもあるように、裁判はいかにもアメリカ的テーマだと言えるだろう。

名作『クレイマー・クレイマー』(’79)を連想させる『gifted/ギフテッド』のあらすじにおいて、登場人物たちは家族どうしでありながら原告と被告として向き合い、厳しい裁判を争わなくてはならない。両作品のストーリー展開は類似しているが、確固たる悪役が存在しない点で『gifted/ギフテッド』はよりひねりがきいている。『クレイマー・クレイマー』では、親権を取り戻そうとする母親(メリル・ストリープ)が一方的な主張を行う悪役寄りの存在として描かれる。しかし、『gifted/ギフテッド』で親権を主張する祖母イブリンが確固たる悪役であるかというと、そうとも言い切れないところにユニークさがある。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
およそ120分の祝祭 最新映画レビュー

伊藤聡

誰しもが名前は知っているようなメジャーな映画について、その意外な一面や思わぬ楽しみ方を綴る「およそ120分の祝祭」。ポップコーンへ手をのばしながらスクリーンに目をこらす――そんな幸福な気分で味わってほしい、ブロガーの伊藤聡さんによる連...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

yu_llri いつも伊藤さんのレビューを楽しみにしている。→ 2年弱前 replyretweetfavorite