「抜群のプロポーション」「クールな美貌」「強い女性像」
高校生の頃、その学年の女子全体を牛耳っている感じを隠さない同級生女子が、黒板の下にあるコンセントで自分の携帯電話を充電していた。教室にひとつしかないコンセント、教室のど真ん中にあるコンセントを専有してしまう姿勢におののいた記憶が色濃く残っている。携帯の所持は認められていたものの、校内での使用は禁止されていたはず。だが、校内で充電してはいけないとのルールは示されていなかった。彼女と彼女の側近以外が充電することはなく、あのコンセントを使うのはあの人たちだけ、という法規が自然と出来上がっていくのだった。
その人は背が高くて強気な人だった。人の記憶の保持と接続は、自由気ままというか強引なものだけれど、テレビで菜々緒や栗山千明や黒木メイサやシシド・カフカを見ると、黒板の下のコンセントを専有した彼女のことを思い出す。この間の日曜日、『情熱大陸』に出た菜々緒を見ていたら、ナレーションで「その抜群のプロポーションとクールな美貌に、時代は強い女性像を重ね合わせてきた」と述べていて、「抜群のプロポーション」「クールな美貌」「強い女性像」という手垢まみれの表現を重ね合わせる勇気に情熱を感じたし、その上で、この番組が作る情熱と肌が合わないことを再確認した。
でも、「強い女性像」って、これくらい大雑把な扱いであっても、共有できる概念として通じてしまう。「時代は」との主語も謎めいているが、悪女役を繰り返してきた菜々緒は意外にも繊細な性格なんですという、あらかじめ想定できるオチに丁寧に突き進む感じも含め、クールで強いって、とにかくバリエーションが用意されていないんだなと痛感した。
いかにもやりそうなことをやっている
シシド・カフカがデビューした頃、あちらから提供されてくる情報を素直に受け取ると、「裸足でドラムを叩く長髪美女」といった、どことなく聞き覚えのある特性が揃っていた。女性がドラムを叩く、との特性は音楽界ではさほどトリッキーなことではないけれど、その状態を芸能界に持ち込むと、たちまちトリッキーな情報となる。それを珍しがる光景を繰り返し見させられることとなった。
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