第4回】なぜ、バイエルンはバルセロナを完封できたのか?

今回取り上げるのは、12―13チャンピオンズリーグの準決勝ファーストレグ「バイエルン対バルセロナ」です。世界一のチーム、バルセロナの大敗というショッキングな結果に驚いた人も多いのでは? なぜ、バルセロナはここまで大差で負けてしまったのか? そして、バイエルンというエネルギッシュなチームが予感させる新しいサッカーのコンセプトとは? 記事の内容や、サッカーの観方についての質問はこちらまで。

バルセロナが完敗した理由

12―13チャンピオンズリーグ準決勝、バイエルン対バルセロナのファーストレグは4-0でバイエルンが先勝。なんとも衝撃的な結果となった。

ボールポゼッションはバイエルンが37パーセント、バルセロナが63パーセント。相変わらず高い数値を記録したバルセロナだが……そのボール保持が生み出した決定機は少なかった。試合の内容とスコアは合理的といえる。

なぜ、バルセロナはここまでの大差を付けられたのか? 

理由はシンプルだ。長所を抑えられ、弱点を突かれ、最大兵器であるメッシを封じられたから。この3つで説明はつく。これらについては記事後部で詳しく取り上げるが、筆者はバルセロナブームが本格的に盛り上がり始めた一昨年くらいから、“ネクスト・バルサ”についてセミナーや原稿で何度か言及したことがある。ファッションや食べ物に流行り廃れがあるように、サッカーのスタイルにもトレンドが存在する。

人間がプレーする以上、サッカーチームは自然劣化することを避けられない。身体的な問題、メンタルの問題、人間関係などチームにはさまざまな影響が起こり得る。もちろん対戦相手も馬鹿ではないので、強いチームを打ち破るための戦術も考えてくる。勝ち続けるためには王者であろうと立ち止まることは許されない。だからサッカーは面白い。

“ネクスト・バルサ”の予感

筆者が“ネクスト・バルサ”を具体的にイメージし始めたのは、11-12シーズンのリーガエスパニョーラ、アスレティック・ビルバオ対バルセロナの試合だった。

メッシが『偽の9番』としてセンターフォワードの位置から中盤に下がり、1枚増やした中盤で数的優位を作ってボールを支配する。そのバルセロナ戦術に対し、ビルバオを率いるビエルサ監督は自らの代名詞でもある1対1のマンツーマン守備をぶつけ、バルセロナの数的優位が生まれることを真っ向からのプレッシングで防いだ。アディショナルタイムにメッシのゴールで同点になったものの、途中までは2-1でビルバオの勝利が見えていた試合だった。

この試合を見たとき、筆者がイメージしたのは『フィジカル』の新時代だった。

バルセロナが生み出そうとする数的優位のコンセプトを、ビルバオはシステムではなく、全体を1対1で組み合わせる対人の守備で対応した。もしも、そのビルバオの選手が世界トップクラスのフィジカルを誇る11人になったら試合はどうなるだろうか。

それも単純にでかいとか、キック力があるとか、そういう意味のフィジカルではない。強烈なダッシュ力と、それを90分繰り返すスタミナ、そしてスムーズな方向転換とブレーキ能力。つまり陸上や格闘技のフィジカルではなく、サッカーに最適化されたフィジカルを持った11人。そんなチームがビルバオに近いコンセプトを取り入れてバルセロナと戦ったらどうなるか。

その答えが、バイエルン・ミュンヘンだった。

幼稚園児でも知っているバルサの弱点

まずはバイエルンが突いたバルセロナの弱点から。それは空中戦、特にセットプレーだ。

これは1点目の場面。コーナーキックのこぼれ球からロッベンが右足でクロス。これをファーサイド側からダンチがヘディングで折り返し、ロッベンにパスを落としたミュラーが走り込んでヘディングシュートを決めた。

解説の鈴木良平さんも言っていたが、この場面のポイントはロッベンの『ふんわりクロス』だ。通常、いわゆる良質のクロスは鋭く落ちるボールを指すことが多く、中央の選手がマークを外してフリーでヘディングしやすくなる。しかしロッベンはあえてふわりとボールを高く上げ、空中の競り合いに持ち込ませた。そして長身のダンチがアウヴェスの遥か上からヘディングでミュラーへ折り返す。小兵が多いバルセロナの弱点をクロスボールの質で突いてきた。

実は、最初はロッベンが左利きなので、右足では鋭いボールを蹴ることができずにふわりと蹴ったのかと思ったが、どうも意図的なクロスだったようだ。その後もバイエルンは徹頭徹尾ふんわりクロス。49分にコーナーキックから生まれた追加点も全く同じ形だった。キッカーのロッベンはボールの下側を蹴り、下回転のホップアップするクロスをファーサイドへ。今度はミュラーがアウヴェスに競り勝ち、折り返したボールをゴメスが押し込んだ。

バルセロナはファーストレグをロースコアで終え、カンプ・ノウで2戦目を迎えようという意志も感じられたが、空中戦にこれだけ不利な状況を考えると、ゲームプランそのものが正しかったのかどうか疑問を感じる。相手がバイエルンだからこそ、もっと打ち合い、敵陣で永遠に試合をするくらいのプレッシャーが必要だったと思う。バルセロナは敵陣へのプレッシングも中途半端で、ディフェンスから前線が間延びしてしまったので、逆にバイエルンにパスをつながれる場面も目立った。

とはいえ、ここまではそれほど驚くことではない。空中戦にバルセロナが弱いことなんて、カタルーニャなら幼稚園児でも知っているだろう。

むしろ筆者が驚いたのはバイエルンの素晴らしい守備だ。

バイエルンはどのようにバルセロナの長所を抑えたのか?
そしてどのようにメッシを抑えたのか?

バイエルンはなぜ、バルセロナを完封できたのか?

これはバイエルンが敷く、『対バルセロナ第一防波堤』の図だ。
バルセロナの攻撃がスタートするとき、すなわちセンターバックのピケやバルトラがボールを持った状態に対してバイエルンはどう対応するか。

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居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~

清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

hidedy 素晴らしい分析です。“@kaizokuhide: 【04/26 13:12まで無料 約5年前 replyretweetfavorite

TAKACHAN007 あとで読む 約5年前 replyretweetfavorite

shu_0115 これは来年のW杯でのドイツとスペインにも関わってくるね。 約5年前 replyretweetfavorite

tadayoshi85k こりゃ続きが気になるなぁ。→ 【04/26 13:12まで無料 】 約5年前 replyretweetfavorite