ビットコインは、10分ごとに繰り広げられるマイニングレースの報酬として、新規に発行されます。現在の報酬は12.5BTCです。
ということは、1時間で75BTC、1日当たり1800BTC、1カ月当たり5万4000BTCが新たに発行される計算です。
2017年1月現在の総発行数は1600万枚を超えています(下図)。
一方、ビットコインは発行枚数の上限が2100万枚と決まっていて、有限だからこそ価値があると前に述べました(『実体のないビットコインがなぜ「通貨」としての価値を持つのか?』参照)。発行ペースが決まっていて、誰かが恣意的に発行することはできないので、ハイパーインフレなどが起きる心配がないわけです。
上限2100万枚のうちの1600万枚が発行済みということは、ビットコインの取引がはじまった2009年からわずか8年で、全体の76%がすでに市場に流通していることになります。ところが、ビットコインが掘り尽くされるのは2141年とされていて、まだ100年以上先の話です。
4年に1回訪れる「半減期」
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。それには二つの理由があります。
一つは「半減期」と呼ばれるビットコインの発行にまつわるルールです。ざっくりいうと、4年に1回、オリンピックイヤーに、マイナーに与えられる報酬(ビットコイン)が半分になると決められているのです。
同じ作業に対して支払われる報酬が2分の1に下げられるということは、1BTCの価値が半減するということです。逆にいうと、この半減期の前後にビットコインの相場が倍になってくれないと、マイナーがコストをかけてビットコインを掘る意味がなくなってしまうのです。
ビットコインの相場は、外為相場と同じようにプレイヤーの「読み」によって決まっていくので、みんなが「倍」になるはずだと思えば、価格は上がり続けます。2016年の夏のあいだはまさにバブルで、一時期「1BTC=8万円」まで急騰しました(その後、「1BTC=6万円」あたりで落ち着きましたが)。
現時点でビットコインは、決済手段や送金手段というよりも、FXのような投資対象の一つと見ている人が多いので、半減期を境にこうした動きが見られました。
ドルやユーロなどの一般的な為替相場の変動要因としては、2016年6月23日に行われた国民投票で、英国がEU離脱(ブレグジット)を決断したことが大きかったのですが、ビットコインに関しては、2016年夏の最大の変動要因は「半減期」だったといえるでしょう。4年に1回必ず起きるとあらかじめわかっているので、それに向けて買い込んでいた人が多かったわけです。
歴史的に見ると、半減期がやってきたのは2016年が2回目でした。2012年の1回目を経験した人は「半減期を境にビットコインが上がった」ことを見ているので、当然、2回目に期待します。2012年当時、ビットコインを持っていた人は数百、数千人のレベルでしたが、2016年の段階では、ビットコインユーザーは世界でおよそ300万人。この人たちが今回、半減期で価格が上がるという経験をしたので、さらに4年後の2020年、東京オリンピックの年に「1BTC=数十万円」まで膨らむという読みで買いに走る可能性があります。
ムーアの法則と半減期
では、どうして半減期が決められているのでしょうか。
半減期の考え方の基本には、半導体の集積密度が1年半から2年ごとに倍増するという「ムーアの法則」があります(下図)。この経験則をマイニングに当てはめると、コンピューターの処理速度がおよそ2年ごとに倍増していくなら、いま100の時間とマシンパワーを使って解いたマイニングの価値は、2年後には半分の50しかないことになります。処理速度が2倍になれば、価値は2分の1になる。「半減期」のルールはこの考え方に基づいています。
ムーアの法則が1年半から2年で2倍としているのに対して、ビットコインが4年で2倍(ビットコインの価値は2分の1)と見積もっている理由は正直よくわかりません。ただ、マイニングの難易度は常に変動するので、ちょうど10分程度で解けるように微調整が繰り返されています。そのいちばん大きな調整が4年に1回あると考えれば、太陽の運行と暦のずれを調整する「閏うるう年」のようなものといえるかもしれません。
2141年にすべてのコインが発行済みになる
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。