爪のなかから香るもの。
−女優にしてほしいこと−

【第31回】爪を嚙む行為はやめられない。その深層心理をここで正直に告白するとしよう。そして、本当に嚙みたいのは女優の……だということも。切ないほどにわかりあえない男と女。だから、現場ではこんなことも起きています!

稽古中に爪を嚙むのがクセで、いつもぼくの机のうえには、ぼくの爪たちが整頓されて並んでいて、女優さんたちはそんなぼくの机が気持ち悪いようで、ぼくのことをまるで、路上に吐き捨てられた痰(たん)を見るみたいなかんじで見てくるのだが。その女優さんたちの視線がほしくて、爪を嚙んでるのもある。

「ぼくは比較的、きびしい演出家だから、稽古中はとことん毒舌で、女優さんたちを罵倒するけれど、でもほんとうは踏まれたいくらいのかんじなんです。ぼくは爪を嚙みますが、ほんとうに嚙みたいのは、ぼくの爪ではなくて。女優さんたち、みなさんの、ひとりひとりの爪を、ほんとうは嚙みたいのです。ぼくを爪切りくらいにおもってほしい。あなたたちは、ぼくを、吐き捨てられた痰のように見ますが、ぼくはあなたたちの痰を掬(すく)いとって、飲み込むことができるでしょう。いや、飲み込むことができる、じゃなくて、飲み込みたいです。それくらい、みなさんの隅々を知りたいし、味わいたいです。口にしたいです。でもできないのでしょうね、やっぱりぼくたちは他人だから」

と、こころのなかでいくら切実になっても届かないのが、演出家と女優の距離でもあって、それがまたいいんだけれど。

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