第213回 テンテンにはさまれて(前編)

分数に隠れた《無限》についてユーリが思考をめぐらせる! 「無限を探そう」シーズン第2章前編。
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
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無限、無限、無限……

と、いとこのユーリ無限についてのおしゃべりをしている(第212回の続き)。

ユーリ「無限、無限、無限……」

「寿限無、寿限無、寿限無……」

ユーリ「じゃましないで!」

「何を考えているの?」

ユーリ「んー、お兄ちゃんは、$y = \frac1x$の漸近線で《無限》を感じたっていってたじゃん?(第212回参照)」

「そうだね」

ユーリ「あのね、ユーリも割り算のときに感じたの」

「割り算」

ユーリ「うん。$$ 1 \div 3 = 0.333\cdots $$ みたいなの。$3$がずっと続くじゃん? あたりまえだけど、 最初に見たときすっごく驚いた!」

「なるほどね」

ユーリ「ずっと、どこまでも、続くのがすごいって思ったよ。でも、悲しい出来事もあったのじゃ」

「何だろう」

ユーリ「$1 \div 3$で$3$がずっと続くじゃん?だから、同じように考えると、 $$ 1 \div 2 = 0.500\cdots $$ みたいに$0$がずっと続く!って考えたの」

「そうだね。それは全然おかしくないけど、何が悲しいんだろう」

ユーリ「あのね、友達から《おかしい》って言われたから。$0.5$は$0.5$だから、$0.500\cdots$って書くのは変だって。 仲良かったんだけど、それでケンカみたいになっちゃった」

「へえ、そうなんだ。$0.5$と書いても$0.500\cdots$と書いても、値はまったく等しいのにね。書き方が違うだけで」

ユーリ「だよねー!」

「ユーリは、繰り返しが出てくるときの書き方、知ってる? こういうの」

《テンを使って繰り返しを表す》 $$ \begin{align*} 0.333\cdots &= 0.\dot{3} && \text{$3$ $\HIRANO$繰り返し} \\ 0.1666\cdots &= 0.1\dot{6} && \text{$6$ $\HIRANO$繰り返し} \\ 0.142857142857\cdots &= 0.\dot{1}4285\dot{7} && \text{$142857$ $\HIRANO$繰り返し} \\ \end{align*} $$

ユーリ「知ってるよん。テンを使うんでしょ?」

「そうだね。数字の上にテンを打つ。$0.\dot{3}$のように$3$の上にテンを打てば、$3$をずっと繰り返す。 $0.\dot{1}4285\dot{7}$のように二箇所にテンを打てば、 その二つのテンの間を繰り返す」

ユーリ「そだね」

「いまユーリがいった$0.500\cdots$というのは、$$ 0.5 = 0.500\cdots = 0.5\dot{0} $$ と書くことができるなあ、と思ったんだ。 同じ値を表す方法が一種類とは限らないよね」

ユーリ「$\frac12$も同じ値だし!」

「確かにそうだ。もっとも、$0.5\dot{0}$と書くことはあまりないけどね……そうだ、 こんなクイズはどうだろう」

ユーリ「なになに? 空前絶後に楽しいクイズ?」

「無駄にハードル上げるなよ」

クイズ1($\frac1n$が有限小数になるときの$n$)

$n$を$1$以上の整数とする($n = 1,2,3,\ldots$)。

$\frac1n$の値を小数で表すと以下のようになる。

$$ \begin{array}{rclclcl} \dfrac{1}{1} &=& 1 \\ \dfrac{1}{2} &=& 0.5 \\ \dfrac{1}{3} &=& 0.333\cdots &=& 0.\dot{3} \\ \dfrac{1}{4} &=& 0.25 \\ \dfrac{1}{5} &=& 0.2 \\ \dfrac{1}{6} &=& 0.1666\cdots &=& 0.1\dot{6} \\ \dfrac{1}{7} &=& 0.142857142857\cdots &=& 0.\dot{1}4285\dot{7} \\ \dfrac{1}{8} &=& 0.125 \\ \dfrac{1}{9} &=& 0.111\cdots &=& 0.\dot{1} \\ \dfrac{1}{10} &=& 0.1 \\ \end{array} $$

$\frac1n$が有限小数ならば、$n$はどんな数だといえるか。 すなわち、 $1, 0.5, 0.25, 0.2, 0.125, 0.1$のように、 $\frac1n$の値を、テンを使わずに有限の桁で表せるとき、$n$はどんな数だといえるか。

ユーリ「ほほー! $n = 1,2,4,5,8,10$を調べるってこと?」

「そうだね。そしてもちろん、それより大きな$n$についてもね」

ユーリ「……」

「どう? $\frac1n$が有限小数ならば、$n$はどんな数?」

ユーリ「黙って! 考えさせて」

「はいはい」

ユーリ「わかった! $2$と$5$?」

「ユーリ、もう少していねいに言おうよ」

ユーリ「$2$と$5$で割り切れ……んにゃ。違う違う。$n$は、《$2$で割り切れるか、$5$で割り切れる数》で、どーかにゃ?」

「うーん、惜しいなあ!」

ユーリ「え、違うの?」

「たとえば、$n = 6$は$2$で割り切れるけど、$\frac16 = 0.1\dot{6}$だよ。有限小数じゃない」

ユーリ「あー。そーなるかー。だったら、$n$は、《$2$でできるだけ割ってから、$5$でできるだけ割ると、$1$になる数》」

「うーん、まあね。まちがいじゃないね」

ユーリ「やたー!」

「お兄ちゃんだったら、こんなふうに答えるかな」

クイズ1の答え

$\frac1n$が有限小数になるとき、 $n$は、 $$ n = 2^{a}\times 5^{b} $$ のように書ける。

ただし、$a$と$b$は$0$以上の整数とする。

ユーリ「でたな。数式で書きたがり。これって、ユーリの答えと同じ?」

「同じだよ。$n = 2^{a} \times 5^{b}$だとすると、$n$を$2$でできるだけ割ったら$5^{b}$になって、それを$5$でできるだけ割ったら$1$になる。 $2^a \times 5^b$がわかりにくかったら、 具体的に書いてみようか。《例示は理解の試金石》だからね」

$$ \begin{array}{|c|c|rl|} \hline a & b & 2^{a} \times 5^{b} & \\ \hline 0 & 0 & 2^0 \times 5^0 &= 1 \\ 1 & 0 & 2^1 \times 5^0 &= 2 \\ 2 & 0 & 2^2 \times 5^0 &= 4 \\ 0 & 1 & 2^0 \times 5^1 &= 5 \\ 3 & 0 & 2^3 \times 5^0 &= 8 \\ 1 & 1 & 2^1 \times 5^1 &= 10 \\ \hline \end{array} $$

ユーリ「ほんとだ、$n = 1,2,4,5,8,10$になる……」

「ところで、$\frac1n$が有限小数で表せると、どうして$n = 2^a \times 5^b$になるかわかる?」

ユーリ「んーと、何となくは。$10$でちょうど割り切れる感じになるから?」

「式で考えようよ。$\frac1n$が有限小数で表せるということは、$\frac1n$は、 $$ \dfrac{1}{n} = \dfrac{m}{10^s} $$ と表せるということ。$m$は$1$以上の整数で、$s$は$0$以上の整数。 もっと具体的に話そうか。たとえば、$n = 8$の場合は、 $$ \dfrac18 = 0.125 = \dfrac{125}{1000} = \dfrac{125}{10^3} $$ のようになる。 分子が$125$という整数になって、分母が$10^3$になる。 $m = 125$で$s = 3$ということ。 有限小数だったら、必ずこういう形に書けるわけだ。小数点以下が有限の桁しかないからね。 小数第$s$位まで考えることになる」

ユーリ「大丈夫、いいよん」

「あとは、$$ \dfrac{1}{n} = \dfrac{m}{10^s} $$ という式を使って、$n$の性質を調べればいいね。 両辺に$10^sn$を掛けて両辺を交換すると、 $$ nm = 10^s $$ になる。$n$と$m$は$1$以上の整数で、$s$は$0$以上の整数。 さて、ここから$n$について何がいえる?」

ユーリ「ははーん。$2$と$5$が出てくる理由、ちゃんとわかった!」

「わかった?」

ユーリ「うん。$mn = 10^s$の右辺は、$$ 10^s = (2\times5)^s = 2^s \times 5^s $$ だから、$2$と$5$しか出てこない!」

「そういうことだね。ユーリは$10^s$を素因数分解したわけだよ。$10^s$は$2^s \times 5^s$のように$2$と$5$という素因数の積で表せる」

ユーリ「そっか。素因数分解っていえばいーんだ」

「整数の構造を探るときには、素因数分解の一意性を使うことがあるね。$nm = 10^s$を、 $$ nm = 2^s \times 5^s $$ と表して考えると、僕たちの整数$n$は、 $2$と$5$しか素因数を持たないことがわかる」

ユーリ「ふんふん。それが、$$ n = 2^a \times 5^b $$ という式のココロ?」

「そういうこと

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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tkooler_lufar 寿限無、ばよえ~ん、ばよえ~ん、ばよえ~ん……https://t.co/8tR1IvVN3O 10ヶ月前 replyretweetfavorite

raoluba 単精度や倍精度の少数で誤差が発生する理由を考えて至った結論。10進数の世の中だけど、12進数が本当は良かったのではないかと考えたり。 -- 10ヶ月前 replyretweetfavorite

kuma_kuma 7の不思議性 https://t.co/fZ7xQVeOPs 10ヶ月前 replyretweetfavorite

junjis0203 分数を小数に直してってのは昔やったな(やった気がする) 素因数分解とか知る前だから前半のような考えには至らなかったけど 10ヶ月前 replyretweetfavorite