僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
無限、無限、無限……
ユーリ「無限、無限、無限……」
僕「寿限無、寿限無、寿限無……」
ユーリ「じゃましないで!」
僕「何を考えているの?」
ユーリ「んー、お兄ちゃんは、$y = \frac1x$の漸近線で《無限》を感じたっていってたじゃん?(第212回参照)」
僕「そうだね」
ユーリ「あのね、ユーリも割り算のときに感じたの」
僕「割り算」
ユーリ「うん。$$ 1 \div 3 = 0.333\cdots $$ みたいなの。$3$がずっと続くじゃん? あたりまえだけど、 最初に見たときすっごく驚いた!」
僕「なるほどね」
ユーリ「ずっと、どこまでも、続くのがすごいって思ったよ。でも、悲しい出来事もあったのじゃ」
僕「何だろう」
ユーリ「$1 \div 3$で$3$がずっと続くじゃん?だから、同じように考えると、 $$ 1 \div 2 = 0.500\cdots $$ みたいに$0$がずっと続く!って考えたの」
僕「そうだね。それは全然おかしくないけど、何が悲しいんだろう」
ユーリ「あのね、友達から《おかしい》って言われたから。$0.5$は$0.5$だから、$0.500\cdots$って書くのは変だって。 仲良かったんだけど、それでケンカみたいになっちゃった」
僕「へえ、そうなんだ。$0.5$と書いても$0.500\cdots$と書いても、値はまったく等しいのにね。書き方が違うだけで」
ユーリ「だよねー!」
僕「ユーリは、繰り返しが出てくるときの書き方、知ってる? こういうの」
ユーリ「知ってるよん。テンを使うんでしょ?」
僕「そうだね。数字の上にテンを打つ。$0.\dot{3}$のように$3$の上にテンを打てば、$3$をずっと繰り返す。 $0.\dot{1}4285\dot{7}$のように二箇所にテンを打てば、 その二つのテンの間を繰り返す」
ユーリ「そだね」
僕「いまユーリがいった$0.500\cdots$というのは、$$ 0.5 = 0.500\cdots = 0.5\dot{0} $$ と書くことができるなあ、と思ったんだ。 同じ値を表す方法が一種類とは限らないよね」
ユーリ「$\frac12$も同じ値だし!」
僕「確かにそうだ。もっとも、$0.5\dot{0}$と書くことはあまりないけどね……そうだ、 こんなクイズはどうだろう」
ユーリ「なになに? 空前絶後に楽しいクイズ?」
僕「無駄にハードル上げるなよ」
$n$を$1$以上の整数とする($n = 1,2,3,\ldots$)。
$\frac1n$の値を小数で表すと以下のようになる。
$$ \begin{array}{rclclcl} \dfrac{1}{1} &=& 1 \\ \dfrac{1}{2} &=& 0.5 \\ \dfrac{1}{3} &=& 0.333\cdots &=& 0.\dot{3} \\ \dfrac{1}{4} &=& 0.25 \\ \dfrac{1}{5} &=& 0.2 \\ \dfrac{1}{6} &=& 0.1666\cdots &=& 0.1\dot{6} \\ \dfrac{1}{7} &=& 0.142857142857\cdots &=& 0.\dot{1}4285\dot{7} \\ \dfrac{1}{8} &=& 0.125 \\ \dfrac{1}{9} &=& 0.111\cdots &=& 0.\dot{1} \\ \dfrac{1}{10} &=& 0.1 \\ \end{array} $$
$\frac1n$が有限小数ならば、$n$はどんな数だといえるか。 すなわち、 $1, 0.5, 0.25, 0.2, 0.125, 0.1$のように、 $\frac1n$の値を、テンを使わずに有限の桁で表せるとき、$n$はどんな数だといえるか。
ユーリ「ほほー! $n = 1,2,4,5,8,10$を調べるってこと?」
僕「そうだね。そしてもちろん、それより大きな$n$についてもね」
ユーリ「……」
僕「どう? $\frac1n$が有限小数ならば、$n$はどんな数?」
ユーリ「黙って! 考えさせて」
僕「はいはい」
ユーリ「わかった! $2$と$5$?」
僕「ユーリ、もう少していねいに言おうよ」
ユーリ「$2$と$5$で割り切れ……んにゃ。違う違う。$n$は、《$2$で割り切れるか、$5$で割り切れる数》で、どーかにゃ?」
僕「うーん、惜しいなあ!」
ユーリ「え、違うの?」
僕「たとえば、$n = 6$は$2$で割り切れるけど、$\frac16 = 0.1\dot{6}$だよ。有限小数じゃない」
ユーリ「あー。そーなるかー。だったら、$n$は、《$2$でできるだけ割ってから、$5$でできるだけ割ると、$1$になる数》」
僕「うーん、まあね。まちがいじゃないね」
ユーリ「やたー!」
僕「お兄ちゃんだったら、こんなふうに答えるかな」
$\frac1n$が有限小数になるとき、 $n$は、 $$ n = 2^{a}\times 5^{b} $$ のように書ける。
ただし、$a$と$b$は$0$以上の整数とする。
ユーリ「でたな。数式で書きたがり。これって、ユーリの答えと同じ?」
僕「同じだよ。$n = 2^{a} \times 5^{b}$だとすると、$n$を$2$でできるだけ割ったら$5^{b}$になって、それを$5$でできるだけ割ったら$1$になる。 $2^a \times 5^b$がわかりにくかったら、 具体的に書いてみようか。《例示は理解の試金石》だからね」
$$ \begin{array}{|c|c|rl|} \hline a & b & 2^{a} \times 5^{b} & \\ \hline 0 & 0 & 2^0 \times 5^0 &= 1 \\ 1 & 0 & 2^1 \times 5^0 &= 2 \\ 2 & 0 & 2^2 \times 5^0 &= 4 \\ 0 & 1 & 2^0 \times 5^1 &= 5 \\ 3 & 0 & 2^3 \times 5^0 &= 8 \\ 1 & 1 & 2^1 \times 5^1 &= 10 \\ \hline \end{array} $$ユーリ「ほんとだ、$n = 1,2,4,5,8,10$になる……」
僕「ところで、$\frac1n$が有限小数で表せると、どうして$n = 2^a \times 5^b$になるかわかる?」
ユーリ「んーと、何となくは。$10$でちょうど割り切れる感じになるから?」
僕「式で考えようよ。$\frac1n$が有限小数で表せるということは、$\frac1n$は、 $$ \dfrac{1}{n} = \dfrac{m}{10^s} $$ と表せるということ。$m$は$1$以上の整数で、$s$は$0$以上の整数。 もっと具体的に話そうか。たとえば、$n = 8$の場合は、 $$ \dfrac18 = 0.125 = \dfrac{125}{1000} = \dfrac{125}{10^3} $$ のようになる。 分子が$125$という整数になって、分母が$10^3$になる。 $m = 125$で$s = 3$ということ。 有限小数だったら、必ずこういう形に書けるわけだ。小数点以下が有限の桁しかないからね。 小数第$s$位まで考えることになる」
ユーリ「大丈夫、いいよん」
僕「あとは、$$ \dfrac{1}{n} = \dfrac{m}{10^s} $$ という式を使って、$n$の性質を調べればいいね。 両辺に$10^sn$を掛けて両辺を交換すると、 $$ nm = 10^s $$ になる。$n$と$m$は$1$以上の整数で、$s$は$0$以上の整数。 さて、ここから$n$について何がいえる?」
ユーリ「ははーん。$2$と$5$が出てくる理由、ちゃんとわかった!」
僕「わかった?」
ユーリ「うん。$mn = 10^s$の右辺は、$$ 10^s = (2\times5)^s = 2^s \times 5^s $$ だから、$2$と$5$しか出てこない!」
僕「そういうことだね。ユーリは$10^s$を素因数分解したわけだよ。$10^s$は$2^s \times 5^s$のように$2$と$5$という素因数の積で表せる」
ユーリ「そっか。素因数分解っていえばいーんだ」
僕「整数の構造を探るときには、素因数分解の一意性を使うことがあるね。$nm = 10^s$を、 $$ nm = 2^s \times 5^s $$ と表して考えると、僕たちの整数$n$は、 $2$と$5$しか素因数を持たないことがわかる」
ユーリ「ふんふん。それが、$$ n = 2^a \times 5^b $$ という式のココロ?」
僕「そういうこと
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)