第7章 ある会社の買収&売却劇
ホールディングス設立
ビジネスに関する知識や経営者に必要な資質について、自分なりに勉強し、咀嚼できたと思うようになった僕は、しっかりとした組織を構築し直し、もう1つ上のレベルに成長させることを目指すことにした。
買収してきたいくつかの会社の中には、税金の繰越欠損金を生じさせているところもあったので、上手にまとめられるところはまとめたほうが、税制上のメリットもあった。1つの会社を中心にして、ホールディングス体制に移行しようというのが僕の考えだった。
こうしたプロセスを経て、2011年、ティガラ株式会社を誕生させた。
社名のティガラは、中国のことわざである「虎に翼」から取っている。意味は、「もともと強い者や勢いのある者に、さらに威力が加わること」というものだ。これを元に、英語のtiger(虎)とala(翼)を結んでティガラとした。
こうして経営する会社がすべてティガラグループの下に収められる方向で、ホールディングス体制がとられていくようになる。ティガラグループは、M&A事業に加え、破綻事業の処理やストラクチャード・ファイナンスといった金融サービスを提供することを主な事業内容とすることにした。
顧客のほとんどが、事業再生や事業承継などの問題を抱えている会社や、クレジットが低く銀行から借り入れをするのが難しい会社、もしくは一般的なベンチャーキャピタルが足踏みするような投資判断の難しいベンチャー企業である。大手投資銀行からの金融サービスを受けたくても受けることができない企業に、革新的な金融サービスを提供することをグループ全体の目的とした。
ある社長との出会い
ホールディングス体制に移行してからすぐのこと、おつきあいのある銀行の支店長さんの依頼で、某企業の財務を見ることになった。
M&Aを本業にしてから、このような依頼は多い。財務を見せてもらいながら、出資やM&Aの提案をさせていただくのが僕のスタイルになっている。少ない時で2〜3件。多い時だと5〜6件、このような案件を僕は同時進行で進めている。
当初は少し話をするだけのつもりだったのだが、その後、話は徐々に広がっていき、僕はこの案件にどっぷりと関わることになっていく。
それを暗示するかのように、3回ほど会って話をした段階で、その会社が発行する新規株式を引き受けることを決めた僕は、2番目のシェアを持つ人物として財務部長を務めることになった。そしてそれ以後、僕が銀行とのやり取りなどを一手に担い、財政再建を図っていくという流れに発展していくのだった。
そもそも銀行側が僕に話を持ってきたのは、貸付をしていたその会社の様子が不透明になってきたことがきっかけだった。ビジネスを拡張させているわけでもないのに不自然な分社を繰り返し、そのたびに銀行からの借入金が増えていっているため、銀行側は不信感を募らせていた。
コンサルを請け負うと決めた僕は、当然のことだが、新規株式を購入する前にこの会社がどんな状況にあるのかを調べてみた。
すると、過去に安定した儲けを出してきたためか、社長が多業種にわたりビジネスを広げていたことがわかってきた。なんと関連会社が8社も存在し、それぞれが別々の業態で商売を行っていたのだ。
これらの業態の中で、本業ともいえるのが飲食チェーンだった。この飲食チェーンは関東圏を中心に21の店舗を展開しており、10店舗が直営、残りの11店舗がフランチャイズ店という状況だった。これら21の店舗はほぼすべて毎月黒字を出していたので、業績は決して悪くなかった。この飲食チェーンに可能性を感じたことが、僕が出資してまで組織再編を手伝うことを決めた最大の理由だった。
コンサルを引き受けることにした僕は、銀行の担当者と一緒にこの会社の社長に会うことになった。
約束の日時に銀行に向かうと、応接間にでっぷりとした白髪頭の中年の男性がリラックスした様子でソファーに腰かけているのが目に入ってきた。これが、その後長いつきあいになる社長だった。
社長の白髪頭はボサボサで、フレームの大きな眼鏡が一度見たら忘れがたい印象を残す。僕が応接間に入っていくと、人のよさそうな話し方であいさつをしてきた。ソファーから立ち上がった社長は、180センチはありそうなくらい背が高かった。
この日の面会を境に、僕は約3年にわたってこの会社の組織再編に奔走することになるのだった。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。