事業再生案件を手掛ける
リーマンショックの直後は、探せばいくらでも倒れかけている会社があった。当時、そうした会社をひたすら探していた時期がある。これはバフェットも行っていた手法で、彼の言葉を借りると「〝しけもく〟を探す」というものだった。つまり、ほとんど何も残っていないが、無理やり「火」をつければどうにか使い物になりそうな会社を探していたのである。
本当は、バフェットのように上場株式の大量保有によるM&Aを行いたかったのだが、僕にはそれをするだけの元手がなかった。そこで、倒れかけている会社を見つけてきては、上場企業ではなく未上場企業の事業再生案件に投資するというパターンを繰り返していた。
〝しけもく〟の中には、財務改善さえすれば会社として再び利益を上げられると確信できるところがいくつもあった。買い手が見つかれば新体制での改善計画を導入することが可能になり、うまくいけば不良債権化を避けることができるので、その会社に貸し付けを行っていた銀行にとっても悪い話ではなかった。
その一方で、どうやっても手に負えないようなケースに遭遇することもあった。そうした場合でも、完全に会社をつぶしてしまうのではなく、その企業の黒字部門だけを分離して存続させるという方法を模索した。これがうまくいけば存続会社から返済を受けることができるので、これも銀行にとっては悪い話ではない。
こうしたスキームを銀行に提案しながら、僕が主導して組織再編を進めていくのだ。実際、ここまで細かく総合的にコンサルをするところはあまりなかったため、需要も多く、仕事の依頼が途切れることはなかった。
そのほか、僕がよく手掛けていたのが、1億円前後の借り入れがある会社だった。一般的に言って、負債額というのはその企業の月商3カ月分ほどに相当する場合が多い。負債が膨らみ過ぎていたとしても、月商の6カ月分くらいに収まっていることがほとんどだ。つまり、1億円の借金を抱えているとすると、その会社には2億円から4億円の年商があると推定していい。銀行もそれがあったから融資していたのだ。
不振の原因を探り、それを排除すれば再び健全な姿に戻る可能性は高かった。特に、年配のオーナー社長が切り盛りしているような会社の場合、詳しく調べてみると〝埋蔵金〟が隠れていたりするから侮れない。
例えば、銀行への建前上、収入部分をやり繰りしてぎりぎり黒字にしている企業の場合、無理して黒字にしようとせず、正直に赤字にしてしまえば、税務署から還付金が戻ってくる。赤字になれば、ひとまず中間法人税を払わずにすむし、繰り越された欠損金を有効活用することも可能になるのだ。その他、含み益を抱えている不動産があるなど、この規模の会社になると必ず組織再編にプラスになる要素がいくつも出てくる。
こうした改善策を銀行とオーナーの両者に提示し、仕事を任せてもらった。
会社というのは、それぞれが一様ならぬ事情を抱えている。不採算部門をクローズしようと説得しても、「それだけは絶対にしたくない」という社長もいれば、不動産の売却について、「あそこは絶対に売れない」と言い張る社長もいる。人員削減もできなければ、役員報酬の減額にも応じられないと頑なになるオーナーもいる。
話をしてみると、どうしてそこまで頑なになるのかが見えてくることがあり、それはそれで興味深い。
不採算部門をなかなか切れない企業を調べてみると、その部門が創業当時の中心事業だったりする。思い入れが強すぎて、事業転換を図ることができなかったという事情が見えてくるのだ。しかし、結局はそれが会社を苦しめる原因になっていることが多い。
皆、それぞれの強い思いがあって始めた事業なので、不採算部門となったからといって、すぐに手放せるものではないのだ。
だからといって何もしないままであれば、業績は悪化の一途をたどる。会社によってそれぞれ事情があるのは理解するが、企業の体質を改善させ、立て直すことを考えなくてはならない。だが、思い切った決断ができずに、会社と共に心中してしまう社長もいる。
創業してから長く続けられてきた会社の社長というのは、何度も修羅場をかいくぐってきていることも多く、魅力的で求心力もある。事業資金を借りてくることについても、「自分だったら、何とでもできる」と信じて疑わない。
以前であれば、本当にどうにかできたのかもしれない。だが、現在のような経済状況には逆らえず、どこかの段階で経営危機に陥ってしまうのだ。リーマンショックの直後は、特にそういったケースを見ることが多かった。
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