Lifeが支えるメディアの未来

一度死んだ番組だからできること—長谷川裕プロデューサーインタビュー前編

日曜深夜という時間帯でありながら、根強い人気を持つラジオ番組『文化系トークラジオLife』。鈴木謙介さんを始めとする個性豊かなパーソナリティたちとともに、番組を支える“黒幕”長谷川裕プロデューサーにインタビュー。土曜ゴールデンタイムの放送から、日曜深夜の放送休止枠に移動することになった「一度死んだ番組」だからこそ、既存の番組とは違う存在意義を発揮しなければならない、と語る長谷川さん。その言葉の裏には、Lifeとラジオ業界全体への深い思いがありました。

「とにかく面白いから聞いてください」と言いたくなるラジオ

加藤貞顕(以下、加藤) 今日はお忙しいなかお時間をとっていただいてありがとうございます。今まで番組の準備をしていたんですか?

長谷川裕(以下、長谷川) いや、スポンサーのところに行ってプレゼンしていました。

加藤 おお、そういうことも長谷川さんご自身がやるんですね。今回は、『文化系トークラジオLife』プロデューサーである長谷川さんに、Lifeのこと、メディア全般のこと、そしてご自身のこと、いろいろ聞いていきたいと思っています。よろしくお願いします!

長谷川 よろしくお願いします。

加藤 cakes(ケイクス)の読者にはLifeのことを知らない人もいると思うので、まずはどういう番組か説明したいんですが……難しいですよね。

長谷川 難しいですねえ。

加藤 日曜の深夜に3時間かけて、メインパーソナリティやサブパーソナリティなど、多数のゲストたちが、わいわいと社会時評を展開するラジオ番組というところでしょうか。うーん、これじゃ伝わらないかな。「とにかく面白いから聞いてください」と言いたくなります(笑)。

長谷川 そう。Lifeって、聞いている人には「Lifeっぽい」で通じるんですけど、聞いていない人には何と言っていいかわからないんですよね。

加藤 オールナイトニッポンっぽさもあるし、別冊宝島っぽさもあるし、岩波新書っぽさもある。1月に発売された『文化系トークラジオ Life のやり方』(TBSサービス)を拝読しましたが、スタートしてからもう7年目なんですよね?(2013年現在) 毎回、内容が濃くて面白い番組を続けているのは本当にすごいなと思っています。


文化系トークラジオ Life のやり方
文化系トークラジオ Life のやり方


長谷川 僕はLifeのことは一度死んだ番組だと思っています。Lifeには、もともと毎週土曜日の夜8時にやっていたものが、半ば打ち切りのような形で毎月第四日曜日の深夜に移動したという経緯があります。今回また、月1回放送から隔月1回放送へ変更になりましたし。一度死んだ番組だからこそ、実験的なことをやって既存のラジオとは別の存在意義を示していかないといけないと思って、いろいろ試しています。

加藤 ストリーミング中継だとか、Twitterでのスポンサー獲得だとか、既存のラジオ番組ではやらないようなことばかりをやっていますよね。それを認めてくれているTBSラジオの体制がすごいです。

長谷川 お目こぼしをしてもらえているんだとは思いますよ。僕は他にもいくつか番組を担当していますが、Lifeでうまくいったことを、その後他の番組でも、やりませんかと相談することもあります。上の人がお目こぼしのつもりで許したことが、実際はラジオの可能性を広げてくれるものだったりするんです。

ラジオ全体のプレゼンスを高めるために

加藤 なんというか、Lifeというラジオ番組が、メディアのあるべき姿を模索する最先端の場所として機能しているようにも見えます。そうであれば、局にとってもLifeは先々を見越しての投資であるということにもなりますよね。

長谷川 僕はそのつもりでいるんですよ。ぶっちゃけて言うと、日曜深夜なんて、黒字にすることがほとんど不可能な時間帯です。基本的に、ビジネス的な意味としてのラジオの価値は、聴取率とCM枠がどれだけ売れているかの二つで決まるんですけど、Lifeの時間帯はどちらを高くすることも難しい。
 だからこそ逆に、ラジオとは今まで縁のなかった人達の間で、ラジオのプレゼンスを高めることに重きを置いてやっています。Lifeでやることはすべて投資だと思って僕はやっていますし、会社もそう思ってやらせてくれている気がします。

加藤 それが可能になっているのは、Lifeを支えている長谷川さんやチャーリー(メインパーソナリティ・鈴木謙介氏の愛称)のがんばりがあるからこそですよね。あれだけのクオリティの内容の番組を毎回作り上げるだけでなく、いろいろな実験にたえず挑戦していて、しかもそれを楽しんでやっている。こんな奇跡的な番組としてLifeが成立している一番の要因だと思います。

長谷川 僕に関して言うと、とにかくラジオのプレゼンスが過小評価されている感覚があって、それをどうにかしたい気持ちが原動力になっています。

加藤 過小評価ですか。

長谷川 たとえば、僕が最初に担当した『森本毅郎・スタンバイ!』という番組があります。今でも魅力ある番組の一つですが、僕が担当していた当時は、100万人が聞いているくらいの高聴取率でした。

加藤 100万人! すごいですね。

長谷川 しかも毎朝ですよ。本の100万部と比較してもすごいじゃないですか。でも、世の中の人にしてみたら雑誌の方が断然プレゼンスがありますよね? みんな、『森本毅郎・スタンバイ!』は知らないけど、週刊朝日や週刊現代は知っている。

加藤 そうですね。みんな読んだことのない雑誌を知っていても、ラジオの場合、ラジオを聴いていない人は番組を全然知らないことが多い。

長谷川 雑誌の場合、電車に中吊り広告があったり本屋に置いてあったり、いろいろな場所で人目に触れることができるんですよね。ラジオにはそれがない。だから、ラジオを聴かない人に対してプレゼンスを高めていきたい気持ちがすごくあります。

加藤 でも、それって、深夜ではなくCMが入る時間帯の番組でやる方が合理的なんじゃないですか?

長谷川 そこはLifeで実現するからこそ、意味があると思っています。CMが入らない時間帯にやっているLifeは、ラジオの中では最小価値の番組だから、それを大きく見せることができたら業界全体を大きく見せることができるんじゃないかと思っているわけです。

加藤 たしかに、それは一理ありますね。

異端になれるからテレビ局に入った

加藤 長谷川さんは、ラジオやテレビをやりたくてTBSに入ったんですか?

長谷川 いや、出版志望でした。

加藤 こうやってお話ししていても、放送業界の人特有の雰囲気があまりない気が……(笑)。

長谷川 入社前に内定者が集められたときとか、周りのアッパーなノリを見て「俺、ここでやっていけるかな……」って思いました(笑)。

加藤 どうしてテレビ局に入ったんですか?

長谷川 出版業界よりも放送業界の方が早い時期に選考があるので、腕試しのつもりでいくつか受けたんですよ。そうしたら、TBSだけ最後まで進んじゃって。自分は出版だと芽が出ないんじゃないかな、という不安があったので就活をやめてしまいました。

加藤 ええっ! 何が不安だったんですか?

長谷川 大学生活の中で、自分の持っている文化的知識なんて大したことないと身にしみていたんですよ。

加藤 大学はどちらでしたっけ?

長谷川 早稲田です。

加藤 たしかに早稲田は、文化的な知識レベルが高い人がいそうです。

長谷川 音楽鑑賞サークルに所属していたんですけど、そこが文化系こじらせの巣窟みたいなところで、恐ろしく知識のある人たちが沢山いました。二浪かつ8年生、みたいな先輩がいるんですよ。もう自分とは全然レベルが違う。僕も入学時は中二病の延長で、「自分ほど本読んだり音楽聴いているヤツはいない」なんて思っていたから、見事に打ちのめされましたね。

加藤 うわ、それはキツいですね。

長谷川 きっとレコード会社には自分より音楽を聞いている人がたくさんいるし、出版社には自分より本を読んでいる人がたくさんいるに違いないとおびえてましたね。そこに行っても、僕は十把一絡げで終るだろうと思いました。
その点、放送局だったら、逆に異端すぎて周囲と比較する必要がなくなる。TBSに内定したときも、僕は「変なヤツ」枠だという確信がありました。だから、会社の中心にはなれないだろうけどかえって面白いことをやれるんじゃないかと思って、TBSに入ることにしたんです。

加藤 すごく戦略的ですよね。でも、僕も含めて、出版業界の人ってそこまで文化的知識の摂取量が高いわけではないと思いますよ。

長谷川 僕も仕事を始めてから気付きました。よく考えたら、ものすごく消費している人がいい生産者になれるわけではないんですよね。生産者として働きながら消費をし続けるのって本当に大変ですから。Lifeのサブパーソナリティでもある日経BP社の編集者・柳瀬博一さんは両方を兼ね備えているけど、ごくごく例外。

加藤 柳瀬さんはおかしいですからね(笑)。あの博識さは、基準にしてはいけません。とは言え、長谷川さんだって、普通の編集者に比べて間違いなく突出した知識量を持っているような気がします。

メジャーへの対抗心に駆り立てられて

加藤 本では、小学校のときから趣味が合う人がいなかったって書いてありましたが。

長谷川 はい。小学生の頃はそれでもクラスメイトと仲良くしてたんですけど、中高になると文化系自意識とでもいうようなものが強まってきて、自分からクラスのメジャーシーンと距離を置くようになっていきました。中二病だったんで(笑)。

加藤 高校でクイズ研究会に入ったのも、中二病だったからですか?

長谷川 そうですね。マニアックな知識を出しても嫌な顔をされない場所が「クイ研」くらいだったんですよ。

加藤 関東のクイズ研究会を束ねて「関東クイズ連合」を作ったとか。暴走族っぽいネーミングセンスも最高なんですが(笑)、バリバリの文化系でありながら仲間を束ねる方向になるところがおもしろいですねえ。

長谷川 子供の頃から結社的なものを作るのが好きなんです。学校非公認のクラブを作って会員証を発行したり、友達をまとめて合宿をしたりしてました。

加藤 それって文化系としてはすごく特殊ですよ。僕自身がそうだったんですが、文化系というと一人で本を読んでいるようなイメージがあります。なので、長谷川さんの人を巻き込んでいくところは、体育会系っぽい感じもありますよね。

長谷川 うーん、体育会の団体って、学校から公認されているものですよね。伝統を重んじて権威を大切にする。僕としてはむしろ体育会系に対抗できるインディペンデント的なものに憧れて、自主的な団体を作っていました。関東クイズ連合も、テレビ局のお仕着せの大会じゃなくて、自分たちで大会を運営したいという気持ちから作りました。

加藤 メジャーなものに対する対抗心が根っからあったんですね。

長谷川 ひねくれ者なんです。さっき大学が早稲田だという話をしましたけど、学部は政経です。でも、本当は文学部に行こうと思っていましたし。

加藤 え、文学部は落ちたから政経に行ったんですか?

長谷川 いや実は、両方受かっていたんです。でも第一志望は文学部だったんですよ。

加藤 政経の方が難しいですよね? 行くつもりがなかったなら何のために受けたんですか?

長谷川 政経を蹴って文学部行ったらカッコいいだろ、と思って。

加藤 うわ、それは(笑)。

長谷川 その方がカッコいいじゃんと思ってましたが、親から塾の先生までみんなに反対されて、結局政経に行く流れに……。そのうえ、TBSなんていうメジャーな会社に入ってしまったし、何がメジャー嫌いなんだって感じですよね。

加藤 中二でありながら、メジャーにいってしまう流れがおもしろいです。でもそれを聞いて、Lifeの方向性に納得感が高まりました。Lifeは大手メディアの番組でありながら、インディペンデントな空気を持っていますよね。これは長谷川さんのそういう来歴も影響していますね。

(つづく)


ケイクス

この連載について

Lifeが支えるメディアの未来

長谷川裕 /cakes編集部

日曜深夜という時間帯でありながら、根強い人気を持つラジオ番組「文化系トークラジオLife」。鈴木謙介さんを始めとする個性豊かなパーソナリティたちとともに、番組を支える“黒幕”長谷川裕プロデューサーにインタビュー。

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コメント

toniwagi 文化系こじらせの巣窟w 約5年前 replyretweetfavorite

minoritech 正規軍としてのTBSラジオPとLife黒幕としてのゲリラ戦。 約5年前 replyretweetfavorite

kikuchigumi 読了 #denpa954 約5年前 replyretweetfavorite

u14430 5/31まで無料で読めます。 #life954 / 約5年前 replyretweetfavorite