「2億円出資してください! 」
お金がなくなり、トレードを続けられなくなった僕は、再びAの親を訪ねた。訪問の理由は、資金提供のお願いをするためだった。
それまでの期間で僕はさまざまなバックテストを行っていた。それらの結果をしっかりとまとめ、戦略と運用成績について説明をした上で、出資のお願いをするつもりでいた。
当時の僕は、デイトレードだけでなく、できれば本命の不動産投資にも乗り出したいと考えていた。したがって、株取引のほかに不動産についての本もかなり読んでいた。実際に不動産投資を始めるのであれば、どうしてもAの親に出資をしてもらう必要があった。
Aの親は、名古屋だけでなく、東京にも家を持っていた。会いたいという申し入れをすると、「じゃあ、東京に来てくれ」と言われ、僕は1人で新幹線に乗って上京した。電車賃がもったいなかったが、出資してもらうことを思えば、出向くほかなかった。
待ち合わせ場所は、麻布にある懐石料理の店。やってきたのは父親のほうだった。慣れない場所で落ち着かなかったが、一通りの挨拶をすませてしばらく学校の話などをすると、さっそく僕は本題に入った。
「ご相談なんですけど、これから本格的に投資をしたいと思うので、僕に2億円ほど出資してくれませんか?」
こんな大それたことを、僕はさらりと言ってのけた。
僕の立てたプランでは、2億円のうち1億5000万円で不動産を買い、そこから入ってくる賃貸収入と、残りの5000万円をデイトレードに回して儲けを出すことを目指していた。不動産投資とデイトレードを組み合わせることによって、リスクを減らすことができるはずだった。
今考えると、商売の経験がまったくない僕が不動産とデイトレードの2カ所に投資をしようというのだから、リスクを減らすどころか、逆に増えていると突っ込みを入れたいところだが、中3の僕にはそこまで深く考える能力はまだ備わっていなかった。
僕の話を聞いて、Aの父親は唖然とした顔をした。その表情を見ながら、「2億円ぐらいまとめてもらわないと、資金効率が悪いし、逆にリスクも高くなりますから」と、僕は何食わぬ顔で言い募った。
(何の根拠もなく、でたらめな気持ちで出資してほしいと言っているのではない)
そんな思いがあったからだった。僕は、まとめてきた戦略や見込まれる運用成績について、できるだけ丁寧に説明することに努めた。
ずいぶんと長い時間を要したが、おそらく相手はほとんどわかっていなかったと思う。返済見込みについてもしっかりと話したが、相手の反応は鈍かった。一通りの説明が終わったところで、Aの父親が口を開いた。
「いろいろと調べてきてくれたのはわかったけど、不動産投資はまだ早いからやめなさい。ウチはおばあちゃんの代に不動産投資で痛い目を見ていて、不動産投資だけはやらないようにしているんだよ」
こんなふうに諭されると、僕はそれ以上、言葉を続けることができなかった。
ただし、まったく出資してくれないというわけではなかった。
「さすがに2億円出すわけにはいかない。その代わり、1000万円出資するから、それでやってみなさい」
正直言って、1000万円では物足りなく感じたが、まさかお金を出してもらう分際でそんなことが言えるわけはない。僕はありがたく1000万円を受け取ることにした。
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