なぜ「お金の教育」は早いほうがいいのか
—— 今日は村上さんの「親子セミナー」というトークイベントの後にお話を伺っています。セミナー中に、親御さんはお子さんに「お金で何がしたいの? それなんでなの?」って聞くのが一番いい教育なんじゃないかって仰っていましたよね。
村上世彰(以下、村上) はい、お金について、自分の頭で考えてもらう。
—— サンマの値段についてお話されていたのも印象的でした。
村上 そう! 今年のサンマは高いんですよ。でも、おいしくない(笑)。それって不思議じゃないですか?
—— たしかによく考えると、変ですね。
村上 あまりとれなかったから、希少なので高いんだけど、不漁の年だから小さくてあまりおいしくないんですよね。
—— お金について自分の頭で考えるというのは、こういう身近なところからなんですね。
村上 来週は野菜が高いですよ。
—— え、そうなんですか。
村上 今週、雨が多かったでしょう。雨がしばらく続くと野菜が不作になって出荷量が少なくなる。だから高くなるんですよ。僕こういうこと考えるの大好きで。
—— 子どもの頃からそういうことばかり考えている子だったんですか。
村上 そうです。泉屋のクッキーってわかります? 麹町にあるクッキー屋さんなんですけど。小学生の頃、その缶にね、いろんな国のお金を入れてたんですよ。
—— それはお父さまから外貨をもらって。
村上 そうそう。クッキーを食べ終わって、カンカンの中を綺麗にしたら、そこにお金をきれいに並べてね。たいした金額じゃないけど、ドルとかポンドとか入れて眺めてた。
—— 見てるだけでおもしろかったんですか?
村上 僕が子どもの頃は、日本円は、1ドル360円の固定レートだったんですよね。でも他の国はレートが結構動いたりするわけじゃないですか。その交換比率を調べたり。高い安いだけじゃなくって、そこの国のトップの顔も入っているし、国を知るっていうことが、とてもおもしろかったんですよね。
—— お父さまが教えてくださったのですか?
村上 いやそれはもう自然とやってましたね。
—— 今回監修された、『マネーという名の犬——12歳からの「お金」入門』の序文でも、子どもにお金についての教育は、早いうちからしたほうがいいと書いてます。それはなぜでしょうか。
村上 例えば今日のセミナーには、小学生ぐらいの小さな女の子も来てましたけど、サンマがおいしくないのに、なぜ値段が高いのかとかを教えてもらうと、いろんなことを考えますよね。逆に、まだお金のことなんて考えなくていいって言われた瞬間、考えなくなっちゃう。
—— それはそうかもしれないですね。この本の中でも、子どもにお金のことを諭す以下のシーンが、よろしくない教育の例としてありますね。
「子どもにお金の何がわかる」父がつぶやきました。
(中略)
母が心配そうにわたしを見ました。「キーラ、そんなこと言うものじゃないわ。わたしたちは大金とは縁がないのよ。それにお金があっても不幸になるだけよ。大事なのは、少ないお金で満足することなの。よく覚えておくのね」
『マネーという名の犬——12歳からの「お金」入門』P123-124より
村上 やっぱり自分の職業選ぶ直前に勉強するんじゃ遅いと思う。そもそも自分が何について勉強するのか、社会と経済がどういう仕組みで動いていて、その中で自分にとって大切なことはなにかっていうのを考えるべきですよね。
—— たしかに。きっと村上さんは、学生の頃は勉強ができたんでしょうね。
村上 いやいや。僕は中学・高校と、できの悪い学生でしたよ。そんなに成績もよくない。
村上 でも、なぜそうなるのか、という仕組みには、すごく興味があった。例えば、クラゲって成長する過程で4回変態するのってご存知ですか?
—— いや、初めて知りました。
村上 それ理科をちゃんと勉強してないんですよ。教科書に出て来ますよ。
—— おっと、まるで記憶にないです(笑)。
村上 エフィラとかストロビラとか。でも、その名前になんの意味があるのかと。そうじゃなくて、クラゲっていうのはこういう一生を辿るんだよっていうモノの考え方を知ればいいじゃないかって先生に言ったことあるんです。
—— おお。
村上 言った瞬間に、先生からむちゃくちゃ怒られました。
—— え、怒られたんですか?
村上 まあ、しょうもないと思った授業はボイコットしたりしていたので、目をつけられていたんでしょうね。
—— すこし扱いづらい子どもだったんでしょうかね(笑)。
村上 たぶん、そうだと思います(笑)。
子どものためのお金の教育がなぜ必要か
—— 今回、監修された『マネーという名の犬——12歳からの「お金」入門』の「お金って何だろう?」という一言から始まる序文では、本書でも、特に以下の5つのことが大切だと書かれていました。
1.誰かの問題を解決しようとすれば、お金を稼ぐことができる
2.順調な時は誰でもお金を稼げる。トラブルに直面した時に本当の能力がわかる
3.お金のために働くのではなく、お金を自分のために働かせよう
4.幸運は、つねに準備と努力の結果
5.「お金持ちになれば、ほかの人を助けることができる」
村上 自分の本じゃないので、3回ぐらい読み込んで、どこが大事なのか、ということを丁寧に考えましたね。
逆に、この本は投資信託を進めていますが、まったく日本では通用しない話だと思います。
—— そこは書いてしまって大丈夫でしょうか。
村上 書いてください。投資信託はしんどい。今はようやく手数料が安くなりましたけど、なかなか人に任せて儲かるような甘い世界じゃないと僕は思ってます。
—— じゃあ、その部分はお金に対する考え方を学ぶ題材にはいいけれど、投資信託だったら安心してお金が増えるという部分は実用的ではないということですね。
村上 そうです。子どもが投資信託を買ったら、儲かるなんて甘い世界じゃないです。
—— そもそもどうして今回、子ども向けのお金の本を監修しようと思ったんですか。
村上 今後はライフワークとして、投資に関する教育や、啓蒙活動をしたいと思っていたんです。先日出した自叙伝『生涯投資家』でもそう書いたら、いろんな方に手紙やご意見を頂きました。そんな中で、子どものためのお金の教育に関して、飛鳥新社さんから打診がありまして、教育に役立つならぜひやりたいと。
—— 村上さんご自身は、お父さまから投資家としての教えをいろいろ学んだとのことですが。お金についてはどんなことを教えてもらったんでしょうか。
村上 うちは特別なことは言われませんでした。でも、事業をしたり、投資をしたりという自分の仕事のことを包み隠さず教えてくれていましたね。
—— じゃあお父さまの背中を見ていたんですね。
村上 そうですね。
—— 村上さんの書かれた序文には、「お金は汚いものでも悪いものでもない。仲良くなれば、きっと君の毎日を楽しく豊かにしてくれるだろう。」とあります。若い、10代ぐらいの村上さんにとっては、お金のイメージってどのようなものだったんですか?
村上 第一に、お金持ちになると、いろんなことができるってことですね。和田金ってわかります?
—— 松阪牛のお店ですか。
村上 小学校の頃、父親がそこのお肉をどんっと買ってきてね。「今日はお前が一番好きな松阪牛を買ってきてももらったから、好きなだけ食べなさい。でも、これが最後になるかもしれない」といったんですよね。投資で大勝負をするから、もしかしたら贅沢できるのが最後かもしれない、と。
—— おお。
村上 その時、いっぱいお金があれば、これが食べれるんだ、と思いましたよね。物を買うこともできるし、投資もできる。だから、僕はお小遣いをもらっても、使わずに必死で貯めた。
—— あー、なるほど。
村上 あとは、小学校3年生のときに、大学に入るまでのお小遣いとして、100万円をまとめてもらって投資をさせてもらったことですよね。
—— すごいエピソードですよね……。
村上 といっても、その投資がうまくいったのは、たまたま日本経済が上向きだったからです。だから、僕が投資で自信を持てたのも、父親のおかげですよね。父親というセーフティネットの中で、借金もせずに、投資を学べた。
—— チャレンジできる環境だったわけですね。お父さまがなにかうるさく言うことはなかったですか。
村上 父は、僕が大学で進路を考えていた時に「国家というものを勉強するためにぜひ官僚になれ」と強く言いましたが、それ以降は官僚のままでも、投資家でも、好きにどうぞという感じで、特に押し付けがましいことは言わなかったですね。
ただ、たまたま自分のお陰で自由にチャレンジできるんだから、せっかくならおもしろく生きろっていうのは、あったかもしれない。父親は別に日本を恨めとも言わない。言ってもおかしくないですよね。
—— お父さまは、台湾生まれで、日本人として扱われて徴兵されたのに、終戦後はシンガポールの刑務所で捕虜として過ごして、帰還後には日本の国籍を奪われたわけですものね。
村上 日本のために、どこまでできるかチャレンジしてみろ、そのほうがおもしろいぞっていう感じでした。
次回「子どもに、給与や家のローンのことを話したほうがいい理由」は11/23更新予定
聞き手・構成:中島洋一 取材協力:八重洲ブックセンター