「完璧病」にかかっていた『ゴーストバスターズ』の7年間
武田将明(以下、武田) 『さようなら、ギャングたち』に続いて、『虹の彼方に(オーヴァー・ザ・レインボウ)』、さらには先ほどから名前の出ている『ジョン・レノン対火星人』と、三部作と呼ばれる作品を発表され、その後、1988年には『優雅で感傷的な日本野球』によって三島由紀夫賞を受賞されます。
このときの選評で江藤淳は、「言葉が解き放たれて、言葉それ自体に戻りつつ飛翔しているのでなければ、こんな愉しさが生れるはずはない。かくも爽かな言葉の魔術師の出現を目前にして、私は惜しみない拍手を送りたいという気持ちを、どうしても禁じ得なかった」と絶賛しました。それから今日まで、数多くの作品を発表されています。
『虹の彼方に(オーヴァー・ザ・レインボウ)』
(中央公論社、1984年/講談社文芸文庫、2006年)
『優雅で感傷的な日本野球』
(河出書房新社、1988年/河出文庫、2006年)
ただ、1990年に『惑星P‐13の秘密』を出された後、97年まで小説の刊行がないのですが、ここには何か内的な動機があったのでしょうか。
高橋源一郎(以下、高橋) えーとですね、スランプです(笑)。具体的に言うと、この時期はちょうど7年かけて、『ゴーストバスターズ』という小説をずーっと書いていました。
『さようなら、ギャングたち』は1日20枚でしたが、このとき1日2行。覚えているんですけど、2行書いて、また一番最初から読むんです。読むだけで半日ぐらいかけて、そして2行書いてというのをひたすらやっていました。
『ゴーストバスターズ』という小説は、僕、非常に愛着があるんですね。ある意味、どれも形は決まっていて、この小説は二人組がアメリカを探すという話ですね。だから、さまざまな二人、BA‐SHOとSO‐RAとか、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドとか、ドン・キホーテとサンチョ・パンサがペアになって、幻のアメリカを探すという話。
『惑星P‐13の秘密——二台の壊れたロボットのための愛と哀しみに満ちた世界文学』(角川書店、1990年/角川文庫、92年)
『ゴーストバスターズ——冒険小説』
(講談社、1997年/講談社文芸文庫、2010年)
ここで一つ、自分がやろうとしたことに決着をつけたいという思いがあって、そこで幻のアメリカが見つかるか見つからないかわからないんだけども、そこまで辿り着けば、一つ、自分がやろうとしたことの達成があるんじゃないかと思って、7年間やったんですが、どこまで行っても辿り着かない。
実はこの話には、別の結末があるんです。本当はそこに行くはずだったんです。そうしたら、どう書いても行かないんですよ。結末があそこにあるんで、毎回調整していくようにしているうちに、1日2行が1週間で2行になってきた。
ある日、「これ、いつ完成するんだろう、完成する頃に死んでるよ」と思ったときに、何か間違っているんじゃないのか、と。もっと早く気づけよってことなんですけど。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。