変わらぬ微笑みの下で、マイクを持つ香取の手はかすかに震えていた。

28年間のSMAPの活動とその思いを、数々の言動から振り返り、幼少期から三十代に至るまでのファンの女性の28年の歴史と共に纏めあげ、「アイドルとは、ファンとは何か」を問い直すアイドルとファンのノンフィクション書籍『SMAPと、とあるファンの物語』。本書を公開する連載、27回目。稲垣復帰ツアーで歌われた楽曲『世界に一つだけの花』。その時客席から聞こえたのは、今までにない穏やかな歓声だった。

 稲垣吾郎の復帰ツアーとなる「SMAPʼ02 〝Drink! Smap! Tour〟」、そのステージは、あの時5人で立つことが叶わなかったナゴヤドームから始まった。

「去年もうツアーがね、終わるときぐらいに、来年のライブの初日は名古屋にしようっていう話が出てたんです」

 ただラジオでこう打ち明けた中居は直後に、復帰だからといってこの舞台をずるずると情に訴え続けるような場所にはしたくない、という主旨の発言も付け足している。

 私の行った札幌公演は、このツアーではちょうど折り返し地点となるあたりの開催だった。

 テレビでもちろんあの復帰特番を見ていた。

 だが8か月後のコンサートのオープニングで私が見た稲垣の表情は、あの復帰の時よりもさらに強く、迷いのないものへと変わっていた。

 無数の照明と高揚に包まれながらステージに立つ稲垣は、あえて語ることなく、わずか2秒の動作だけで自身の再生と全ての始まりを合図しているように見えた。

「正直言うと、10年やってきて温度がやや低くなっているかなという感じは少し前からあった。皆いろんなことに慣れてきて、仕事をこなす感覚になっていた」

 もう一つの中居の言葉を振り返れば、その2秒は復帰特番で見せたものとはまた違う、稲垣吾郎の、そしてSMAPにとっての、リスタートの合図だったように思う。

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SMAPの28年間の活動と、とあるファンの女性の28年間。決して交わることはなかった。でも、支えられていた。そんな両者の紆余曲折の歩みから見えてくる、アイドルの“意味”。アイドル文化が生み落とした新世代の書き手によるSMAPとそのファンのノンフィクション。

この連載について

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SMAPとそのファンの物語—あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど

乗田綾子

転校を繰り返し、不登校にもなってしまった。思い焦がれた上京は、失敗した。願ったとおりの現実を生きるのは、難しい。だけど――。小学校低学年から30歳に至るまで、とある女性の人生にずっと寄り添っていたのは、親でも彼氏でもなくアイドルだった...もっと読む

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h_mimi0818 お知らせ見逃してた 紅白大トリ私も震えてた 3年弱前 replyretweetfavorite

drifter_2181 【なお前回更新分は日曜日まで無料です】「 3年弱前 replyretweetfavorite

_ash235_ 紅白大トリをグループ歌手が務めたのも彼らが初めてだったのか… 『世界に一つだけの花』シングルカット時のキャッチコピー。 「ちゃんと自分を好きですか?」 3年弱前 replyretweetfavorite

guriswest うわぁ、なんで泣けるんだ 3年弱前 replyretweetfavorite