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24/50『妊娠小説』斎藤美奈子
(筑摩書房)初出1994
文学は高尚な教養 VS 文学は笑えるエンタメ
文学の読み方が変わるっ。高尚なはずの森鴎外や島崎藤村の小説がゲラゲラ笑けてきてしまう文学批評本。#処女評論 #文芸批評 #といっても堅苦しい本ではなくめっちゃ笑える #「私、妊娠したの……」という場面に見覚えがある方注目 #小説の中の女はなぜ生みたがる? #語り口にも注目 #毒ありユーモアあり #文学を笑いながら読みたいときに
『妊娠小説』という本は、文芸批評本である。
批評本ってナニ? と首を傾げられそうだけれども、本を取り上げて、それについてあーだこーだ言えばとりあえず批評本と言われえる。本についての本。それ本当におもしろいの……? と批評を読んだことのない方からは言われそうである。
本についての本を読まなくても、そのまま本を読めばいーじゃん、と。
けどね、違う。本についての本はおもしろい。ものすごく。
いや、訂正しよう。本の中にもおもしろいものとそうでないものが存在するように、「本についての本」も、おもしろいものとそうでないものが存在する。
斎藤美奈子の『妊娠小説』は、日本で出た「本についての本」の中で、もっとも「おもしろい」本についての本である。まずタイトルに気を取られ、妊娠小説っていったい何!? そう思って本を開くと、書き出しにこうある。
《人生を狂わせるこの一言》
日本の近現代文学には、「病気小説」や「貧乏小説」とならんで「妊娠小説」という伝統的ジャンルがあります。
病気小説、というと何となく想像がつく。サナトリウム文学というか、美人がごほごほと咳をする様子や、入院中に一枚の葉に思いを馳せる主人公が思い浮かぶ。貧乏小説、というのも同じく。お母さんが夜なべして内職してくれる、とかね。
しかし、妊娠小説というのは聞いたことないぞ、とたじろぐ。すると斎藤美奈子はこう続ける。
小説のなかで、ヒロインが「赤ちゃんができたらしいの」とこれ見よがしに宣告するシーンを、そしてそのためにヒーローが青くなってあわてふためくシーンを、あなたも目撃したことがあるでしょう。それらはいつも、限りない「どこかで見たぞ」感とともに、わたしたち読者をなんだか鼻がムズムズしてくるような恍惚の世界へといざなってくれるものでした。「妊娠小説」とは、いわば、かかる「受胎告知」によって涙と感動の物語空間を出現せしめるような小説のこと、であります。
今まで無関係だと思っていた数々の本たちが、「妊娠小説」というひとつの言葉を手に入れることによって、ぱっと結びつく
うーむ。そう言われるとこちらまで鼻がムズムズしてくる。たしかに考えてみると日本文学には「望まぬ妊娠」と「驚く主人公(男)」という場面が散見される。
例を挙げてみると、
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