あなたが今、リッツ・カールトンのコンシェルジュデスクで働いているとします。
部屋でテレビを観ていたお客様が、階下に降りてきて、あなたのところへやってきました。お客様は、大の阪神ファン。本当は球場に行って観戦したかったのですが、その時間がとれないということで、テレビを観て応援していたのです。
ところが、この日は阪神がボロ負けしてしまいました。
コンシェルジュデスクにやってきたお客様は、開口一番こう言いました。
「あのさ、今テレビで阪神―巨人戦観てたんだけど、阪神ボロ負けしたんだよね。どうしてか教えてよ」
さて、コンシェルジュのあなたならどうしますか? どういう対応をとりますか?
「さあ……私にはちょっと……」と、一笑に付す人が多いのではないでしょうか。
その人にとっては、それがあたりまえだと思っているからそうするわけです。つまり、自分のものさしで、物事を見ているということに他なりません。
お客様のものさしで見ているとしたら、「あ、そうでしたか! 承知しました、すぐにお調べいたしましょうね!」という言葉がすぐに出てくるでしょう。
そして、たとえば阪神の広報部にすぐに電話を入れて、「じつは、うちにお泊まりのお客様がテレビをご覧になっていたところ、阪神がとても(さすがにボロ負けとは言えませんから)大量に点数をとられたということで、疑問に思われたようでして……これには何か理由はあるのでしょうか? さしつかえのない範囲で教えてもらえませんか?」と、電話することもできるのです。
広報部のほうで、「今日先発予定だった○○選手の家でご不幸がありまして、いつも元気な彼がものすごく打ちひしがれていて、結構ナインも影響されたようで……それでどこか歯車がかみ合わなかったのではないかと、我々としては分析しています」などと、さしつかえない程度に教えてくれるかもしれません。
そうすれば、「広報の方はこうおっしゃっています。それ以上のテクニカルな問題は私どもではわかりませんからどういたしましょうか? お客様ご自身で広報の方からもっと詳しくお話をお聞きになりますか」と、目の前のお客様に伝えることもできるのです。
サービスの基準、つまりは、仕事をしていくうえでの基準がどこにあるのか? どこまでのレベルなのか? それはやはり、自分のものさしに頼ることではなく、相手のものさしで計測することで変わってきますし、同時に、どこまでもその幅は広げることができるものなのです。
「あのジェット機が欲しいんだけど」
前項をふまえたうえで、もう一つ質問です。
今度は、「ジェット機が欲しい」というお客様への対応です。じつは、前項もこれも、私が在職中にリッツ・カールトンで本当にあった事例です。
窓の外を見ていたお客様の目の前を、飛行機が飛んでいきました。何を思ったのかその方は、大空に吸い込まれていく飛行機を見ているうちに「あれが欲しい!」と、強く感じてしまったのです。
この方はお金持ちですから購入資金はあるのですが、飛行機そのものには詳しくなかったため、あなたのところへやってきました。
「僕、○○号室に泊まっている○○だけど、僕の部屋からちょうどね、すっごいきれいな飛行機が見えたんだよね、あれジャンボかな? あれ買いたいんだけど、何とかしてよ」
さて、あなたならどう答えますか?
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