私は2010年から、「百年塾」というものを開催しています。
ご縁があって、私の地元である長野県の善光寺で「寺子屋百年塾」という名前でスタートしました。その後、東京の増上寺でもご縁をいただき、「お江戸百年塾」として、たくさんの方々にお話を伝えてまいりました。
「百年塾」は研修やセミナーというより、一種のコミュニティのようなものだと私は考えています。私がそこでお話しすることは、「教える」とか「勉強してもらう」ということではありません。私の心の中で浮かんでくる新しい価値観や、どんな自分になりたいかを考えるうえできっかけになるようなものを、ポツンポツンとお伝えしていくだけなのです。
参加した方々には、心を空っぽにした状態でいったん受け止めていただいて、自分なりに「おもしろいな」と感じたことだけを吸収し、何かのご縁で近くの席に座った方々と意見交換や意識の共有をしていただきたい。そんな思いで続けてきました。
「寺子屋百年塾」の講義録を自費出版で冊子にまとめたところ非常に好評でしたので、「お江戸百年塾」もなんらかの形で記録を残したいと考えていました。そんな折に出版のお話をいただいたのです。もちろん、ただの講義録を本にするつもりはありませんでした。「お江戸百年塾」でお話ししたことを下敷きに、「生き方・働き方の軸としてのホスピタリティ」というテーマで本にまとめなおしてみました。
「ホスピタリティ」は、生き方・働き方の軸
ホスピタリティとはおもてなしのことをいうのですが、これを私は「相手の心に自分の心を寄り添わせて、相手の立場になって対話をする姿勢そのもの」だと考えています。そしてこの姿勢が、働き方や生き方の軸を作り、それら根源の力を生み出していくのではないかと感じています。
1974年からの35年間、ご縁あって私は、ホテルという舞台で仕事をさせていただきました。なかでも、リッツ・カールトンに勤務した最後の20年間は、自分自身の成長を実感できた時間だったように思います。
リッツ・カールトンが、それまでの職場と大きく違っていた点は、「仕事をすることの意味は何かということを、組織的に継続して考えさせる仕組みがあった」ということです。
仕事の意味とは何か、組織が存在する目的とは何か、とくに、リーダーとして仕事を進めていかなければならない立場にたったときには、誰もがこうしたことを深く考えるようになります。
私自身、いまだに明快な答えを出せずにいるのですが、それでも、見えてきたことがあります。
人は誰でも、本当に人様のお役に立てたときは輝いているということです。
「お客様に喜んでいただけることが自分にとって生きる力になります」
リッツ・カールトンのスタッフは、誰もがこう口にしていました。
自分の存在が社会の役に立っている、人に喜んでいただいている、そう感じられたときに得られる喜びは計り知れないものがあります。相手も自分も、たちまちキラキラ輝く笑顔になります。
さらに大事なことは、世の中のお役に立てたと実感できたとき、じつはその本人が成長しているということです。
自分ができる精いっぱいのことを考え、本当に必要としてくれている相手に仕える謙虚な姿勢を持つ。そのときに、心の形が整い、現実を受け入れて行動に移す力がわいてくる。それが心の成長につながっていくのだと思います。
あなたがリッツ・カールトンのコンシェルジュデスクにいる姿を想像してみてください。突然、お客様にこんな質問をされたらどう対応しますか?
「阪神がボロ負けした理由を教えてよ」
「あのジェット機がほしいんだけど」
本書では、私がホテルマン時代に実際に経験したり、見聞きしたエピソードが満載されています。それだけでなく、私が出会った「とてつもないホスピタリティの持ち主」のエピソードもいっぱい詰め込まれています。
ですから、サービス業に従事していない方でも参考になることがたくさんあると思います。「ホスピタリティ」とは、サービス業界だけの言葉ではなく、人間の生き方・働き方の軸そのものなのです。
『リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ』なんて、ちょっとかっこいいタイトルをつけてみましたが、リラックスした気分で楽しく読んでいただければ幸いです。
※5月7日(火)掲載分の次回より書籍のダイジェストを掲載いたします。
本連載の内容をあますところなく楽しめる1冊、
5月10日に発売です!
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リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ高野登 [発行]角川書店 [発売]角川グループホールディングス発売日:2013/05/10 定価:820円(税5%込) |