第2章 お金儲けの始まり
株を始める
Aの家は、家族で小売業を営んでいた。その商売がうまくいっているというのは、すでに彼から聞いて知っていた。
少し変わっていたのは、子どもに投資をやらせることに前向きだったのは、父親ではなく母親のほうだったことだ。
「ちょうど、ウチの子にもやらせようと思ってたんだけど、全然やらなくて困ってたのよ。友だちと一緒に始めるなら、ちょうどいいじゃない」
「お金儲け」という点では、僕の家とはまったく異なる家庭環境だった。商売をやっている家の親というのは、早いうちから子どもたちに商売をやる様子を見せたり、実際に子どもたちにも商売をさせたりするところがよくある。Aの家にも、明らかにそういう傾向があった。
「口座は私のものを貸してあげるから、それを使っていいわよ」
最初は電話取引を行っていたが、Aの親にネット取引を始めたいと説明すると、すぐに彼らは賛同し、ネット口座を開設して僕たちに使わせてくれることになった。こんなに簡単に始められるとは思っていなかったので、少し拍子抜けするくらいだった。
自分のタネ銭は全部で約30万円。果たしてここからどれだけ増やすことができるのか。何倍、何十倍、いや何百倍にもなる光景を想像すると、武者震いするほど興奮した。
最初に買った株は、セブン‐イレブン・ジャパンだった。最初はどういった銘柄を買ったらいいのかわからなかったので、ニュースで耳にしたことを参考にしながら売買を始めようと思ったのだ。その他には、任天堂や武富士、慣れてきてからはUFJ銀行(現・三菱東京UFJ銀行)などの株を買っていった。幸いなことに、Aは500万円ほどの資金を元手にしていたので、自分だけで購入できないものはAと共同購入のような形をとることで買うことができた。購入する銘柄は、本や雑誌を読みながら研究したり、ネット上で値動きのランキングを見たりして自分で選んでいった。
苦労したのは、株取引を扱った良書を探すことだった。入門書のようなものはあまりなく、あったとしてもハイレベルなものではなかったため、すぐに物足りなくなった。
そのうちに、有用な情報が書かれているのは外国の本に多いことがわかってくる。
ただし、それらは翻訳本なので値段が高かった。1冊6000円や7000円、場合によっては2、3万円する本もあった。
とはいえ、スキルを高めるには、自分に投資をしなくてはならない。多少高くても、システムの決め方や売買ルールの設定の仕方などを学ぶ必要があった。そう考えた僕は、儲けの中から「資料代」を捻出し、高価な本を取り寄せた。それだけではなく、株の情報を集めるために、毎月の会費が約1万円もする有料サイト「カブーフレンズ」にも入会することになる。
正直なところ、扱っている資金の割には資料代が高すぎた。でも僕は、やる以上はセオリーをしっかりと身につけて完璧な形で取り組みたいと考えていた。受験勉強をするときも、まずは参考書を買ってきて、それを活用しながら理解を深めていくのが常道だ。実際にお金を動かすトレードとなれば、それ以上に理解を深めて臨むべきだろう。
最初のうちは、チャートを見るのではなく、買い気配と売り気配の数を参考にする板読みと言われる手法を取り入れて売買していた。基本的に、買った株は2、3日寝かしたりすることはなく、その日のうちにすべての売り買いを終わらせるようにした。
本を読んで他の手法も勉強していくうちに、今度はチャートを見て判断する方法を試したくなった。実際にやってみると、この方法が自分にはしっくりくることがわかり、それからはチャートだけを見て取引をするようになる。
試行錯誤を繰り返しながら、自分なりの方法論を編み出す努力を重ねていった。その際に参考にしたものの1つが、アメリカの投資家集団「タートル」が実践しているものだった。
トレンドフォローといわれるその手法は、横ばいだった株価が過去20 日間の最高値を更新したら、大きなトレンドが生じていると判断し、そのトレンドの中で売り買いを繰り返すというものだ。
手法を考える際に非常に参考にした本として、『魔術師リンダ・ラリーの短期売買入門』(パンローリング刊)がある。名前はおどろおどろしいが、中身はいたってまじめな本だ。古い本だが、その内容は古びておらず、そのためか値段は高かった。今でもキンドル版で2万円以上する。
タートルは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の広告で集められた素人たちが、リチャード・デニスによる門外不出の投資の教育を受けて育った伝説の投資家集団である。僕はタートルの存在を知り、自分も最強の投資家集団を作ろうと思い、事業としてトレーディングを行っていこうとしていた。
まだ会社を作らなければいけないことも知らなかったし、事業計画なんてものを作ることさえも知らなかった。しかし、僕の中ではこれはれっきとした起業であり、自分が起業家としての人生を歩み始めたことにご満悦だった。15 歳の終わりのことである。
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