新しい年の始まりというのは気持ちもあらたまるもの。今年はこんなことをしたい、あんなこともしたい、ワクワクと胸踊らせている方もいらっしゃることでしょう。
夢をかなえたいなら、ちゃんと“夢育て”をしましょうね。
「せいちゃんは大人になったら何になりたい?」
子どもの頃、父親に聞かれると、私は即答でこう言ったものです。
「小説を書く人になりたい!」
「なるほど。それは結構なことやないか」
写真館をしていた父親も面白がって応援してくれました。女学校時代から「少女草」という手作りの同人誌をつくって、友達に回覧しては「もっと続きを読みたい」とせがまれていた私は、自分は小説家になるんだと疑いもしませんでした。
ところが戦争が始まって、終戦を迎えたときには状況はまるで変わってしまった。空襲で写真館は全焼。父親も死んでしまって、母親の苦労は大変なものだったと思います。そうなると私も長女ですから、小説家になる夢を諦めたわけではなかったけれど、弟妹を食べさせていかないといけない。
それで女学校を卒業するとすぐに金物問屋に勤めに出ることにしたんです。
かなえたい夢がある。だけど今すぐには難しい。そういうときに日本語にはとってもいい言葉があるんですよ。
それはそれとして。
今はどうしたって家族を養っていかないといけない、でも「それはそれとして」このままでは終われない。ちょろちょろと胸の奥で燃えている火をしっかりと抱きしめて消さないようにしないと。
19歳で勤め始めて、36歳で芥川賞をとって世に出るまでの20年近くの間に、せっせと投稿しては落選して戻ってきた原稿で、大きな行李はいっぱいになりました。それでもなんで書き続けることが出来たかっていったら、絶対に絶望しなかったから。諦めたらそこで終わり。めぐりあわせの悪さを嘆いていたってしょうがない。今はこうでも、この先は自分の好きなことをやれるかも知れないし、今やっていることの中にも自分の好きなことが見つかるかも知れない。そう信じていたんです。
人生ってね、自分で何もかも選べるものと違う。
勝手に向こうからやってくるものなんですよ。だから柔らかな心で大きく迎え入れた方がいい。めぐりあいを愉しんだらいいんです。そうすると、そこから開けていくものが必ずあるから。
反対に「自分にはこれしかない」と思い込んでいると、世間が狭くなる。今のあなたが思ってるより世間はずっと、ずっと広い。まだ知らないいろんなことがたくさんたくさんあるんだから、心をパーッと広げて、ひとつひとつ発見して面白がらなくちゃ。
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