何の役に立つんだ? その超能力

【第9回】
今村の秘めた力。
それは、手を触れずに物を動かせる「超能力」だった!
……ただし、10cmだけ、なのだが。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


「たぶん、念みたいなものを送り込んで、動かしてるんだと思います」

「思います、じゃねえよ。お前なんなんだよ、テレビ出れるだろ」

「いやあ、無理ですよ。マジシャンの方がすごいことやりますし」

「もう一個なんかやれよ。皿動かしてみろ、皿」

 それが、と、今村は口籠(くちごも)った。

「この、力を使うのって、結構、集中力がいるんですよ」

「おう、そうだろうな。超能力だもんな」

「一回使っちゃうと、もう疲れちゃって、しばらく集中できなくなっちゃうんです」

「は?」

「一日一回が限度で」

「なんだよ、その貴重な一回を、醬油ごときに使うんじゃねえよ」

「すみません」

「じゃあ、明日になれば、もっとすげえもん動かせたりすんのか。その辺に停まってる車とか、事務所に置いてある複合機とか」

 今村は、俯きながら、首を横に振った。

「いや、自分が右手で持てる重さのものじゃないと無理です」

「なんだよ、じゃあ、どんくらい動かせんだよ。どこまででも動かせるのか?」

「右に」

「右?」

「右に、十センチくらいだけ動かせます」

 いささか興奮した様子だった北島の顔が、みるみる萎えていくのがわかった。

「右だけ?」

「はい、そうです」

「左とか前後はダメなのかよ」

「はい、自分から向かって右にだけ」

「じゃあ、離れてるもんでも動かせるのか?」

「いや、どうでしょう。いいとこ二、三メートルくらいだと思います」

 だから嫌だったんだ、と、今村は厨房のオバちゃんに視線をやった。どうして急に人にばらしたのか、と恨めしくなる。自分の力で動かせる程度の物体を、自分から見て右に数センチだけ動かす能力。世界を救うどころか、今村の超能力はイマイチ使い道がわからないのである。

「それじゃ、歩いていって、手で持って動かした方が早いじゃねえか」

「そうですね。基本その方が早いので、滅多に使わないです」

「あのさ」

「はい」

「何の役に立つんだ? その超能力」

 そんなことはこっちが聞きたい、と、今村はため息をついた。

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行成薫

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