写仏@大覚寺 心静かに筆を運ぶ
仕事や家事に追われ、忙しない日々を過ごすうち、なんだか大切なものを見落としたり、大事な時間を蔑ないがしろにしたりしていませんか。そんな自分に気づいたら、写仏を通して己と向き合い、一味違ったリフレッシュの時間を持つのもいいかもしれません。
嵯峨(さが)天皇の離宮として建立された大覚寺は、旧嵯峨御所の名に相応しい1200有余年もの歴史を誇り、今なお平安初期の風情を色濃く残す門跡(もんぜき)寺院。明治初頭までは天皇もしくは皇統の方が 代々の門跡(住職)を務め、いけばな発祥の寺としても親しまれてきました。豊かな自然が広がる中、電柱や電線など近代的なものを目にすることなく、そこかしこに王朝浪漫が見られる類稀な場 所として、時代劇やドラマ、CMなどのロケ地としても有名です。
そんなゆるやかに時が流れる場所で朝9時から体験できる写仏は、仏画を描くための白描図(はくびょうず、彩色を伴わない墨線だけの下絵)を写していくという行。白描図の上に薄い和紙を重ねて、仏さまの 姿を写し取っていく作業は単純であるがゆえに夢中になり、気づけば清浄さの中で穏やかな心持ちに。あらかじめ描かれた線を継いでいくだけなので、絵が苦手でも問題ありません。1時間ほどで完成させることができます。自然と一体化する坐禅や、文字の羅列を追う写経と違って、雑念に気を取られることなく集中できました。
出来上がったら願い事と住所・名前を書き入れて、お線香を上げてから木箱へ奉納。ことり会では、皆の健康とこの本が無事に発刊されることを祈願してきました。とはいえ、願い事はおまけのようなもので、大事なのは己の心に静けさを取り戻すことですね。
観月の夕べ
秋の大覚寺は朝だけではありません。中秋の名月の時期には、空と池にぽっかりと浮かぶ2つの光輝を同時に愛でることができる「観月の夕べ」 が催されます。
これは、嵯峨天皇が大沢池に舟を浮かべ、貴人たちと遊んだという伝承に端を発した行事で、池の畔からだけでなく、池をゆく龍頭鷁首(りょうとうげきす)舟からもお月見が愉しめ、気分はまさに平安のお姫様さながら。枯れた蓮を搔き分けながら進む舟の揺れに身をゆだね、辺りを照らす満月を見上げる稀少な ひととき。いつも頭上にある月に想いを馳せる中で、ほんの束の間、日々の瑣末なことや仕事の疲れ、ままならない理不尽さなんかをも忘れられるとしたら、一度体験してみても損はないのでは。
当日は、農作物の豊作と人々の幸福を祈願する 満月法会(ほうえ) をはじめとする催事も行われます。オリジナル菓子がいただける茶席にもお立ち寄りを。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。