藤田貴大
部屋とアメコミTシャツと、わたし。
−その視線に惑わされて−
【第28回】Tシャツブームの真っ只中、ぼくの心を一瞬さらっていったのは、一枚のTシャツじゃなく、バービー人形を片手にした女の子だった——。彼女はなぜ、そこにいたのか? いまだにナゾな、ある日の出来事です。
空前のアメコミTシャツブームがきていて、買い集めている。やっぱりマーベルが好きだから、スパイダーマン、キャプテンアメリカ、などなど。集めだすと切りがないがこつこつと。
先日のこと、ベランダに干していたはずの一枚が見当たらなかった。どの一枚が見当たらないのか、たくさんあるなかの一枚だからわからなかったが、でもどうやら一枚足りないらしかった。しかしもう部屋を出なくちゃいけない時間で、探すこともできずにどこか気持ちが悪いまま。アパートを出ると。目のまえの植木の枝にハンガーにかかったままのマイティ・ソーのTシャツが掛けられているではないか!
あ、あれは……! ぼくの、マイティ・ソーだ! Tシャツの真ん中にプリントされているソーが、ぼくを睨んでいる。ご、ごめんよ……ソー……。そういや、昨夜は風が強かったね……。
ぼくはTシャツを手に取り、そしてそれを抱きしめようとした。そのときだった。となりに、小学校低学年くらいの女子がいることに気がついた。
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。