正義の味方「パラライザー金田」、ここに復活!

【第7回】
正義は、心の中に持ってるだけじゃ、意味がねえ。
ナイフを手に暴れる無法者に、金田は渾身の一撃を放つ!
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!

「おい、その顔はなんなんだ!」

 上司が声を荒らげて、金田の顔を指さす。翌朝起きた時は、自分でも驚いた。目の周りや、口の端が真っ黒になっていたのだ。土日を挟み、週が明けてもアザは引かず、仕方なしにそのまま出勤したのだが、案の定、上司に見とがめられた。

 好きでこうなったわけではないが、こんな顔では、外回りに出ることもできない。営業なのに外出できないのだから、役立たず以外の何物でもない。上司の怒りももっともではあった。

「申し訳ありません」

「おい、今度は何だ。ケンカか? いい歳こいて、何をやっているんだ!」

 大きな声を聞くと、心が萎縮する。口の中が渇いて、体が震えて、思ったことを思ったように伝えることができない。今まではそうだった。

「違います」

「じゃあなんなんだ! 言い訳があるなら言ってみろ!」

「先日、痴漢に間違われたことがありましたが」

「ああ、ああ。あったな! こっちがどれほど迷惑したと思ってんだ!」

「その時の真犯人が、先週末にも痴漢行為をはたらいておりまして」

「はあ?」

「止(や)めるように制したところ、殴られてこうなりました」

「噓つけ、そんな偶然があるか!」

 憤りを増す上司に向かって、後輩の伊藤が、「その話、マジっすよ」とフォローを入れた。フォローと言うよりは、騒ぎに燃料を投下して面白がっているような感じだ。

「なにがマジだ」

「いや、あの、金田さんと俺、帰る方向一緒なんで、たまたまその電車に乗ってたんですよ、俺」

「なんだって? ほんとか」

「それから、今朝、金田さんを痴漢だと間違えた子の親御さんからも、謝罪したいと連絡がありました。警察から勤務先を聞いたとおっしゃって」

 いつもは目も合わせてくれない女性社員が、フォローに加わってくれた。事実だからしょうがない、といった顔つきではあるが。

「で、その痴漢はどうした」

「取り押さえて、警察に突き出しました」

 上司が、金田から視線を外し、後ろを見る。「マジっす」という、伊藤の声が聞こえた。

「ナイフとか出してヤバかったですよ。ネットでニュースになってましたけど、超アブないやつで」

「そんなやつ、金田じゃどうこうできないだろ」

「いやでも、金田さん、ナイフ持った腕摑みに行って、すごかったですよ。取り押さえたのは、駅員さんとか周りの人とか、寄ってたかってって感じでしたけど」

「そんなアブねえことして、刺されて会社に来られなくなったらどうすんだ? プライオリティってもんを考えろよバカ野郎。痴漢なんてな、ケーサツに任せときゃいいだろ、ケーサツによ。赤の他人なんかどうでもいいだろうが」

「あの」

 金田は、大きく息を吸い込み、腹に力を入れた。

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